Dr Makotyの近況報告2008

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12/7 6日の土曜、佐伯の午前の診療を終えて、米水津に行ってみました。私、米水津のすり身が大好物なんです。しかし、残念ながらお目当ての品は売り切れ。。。米水津から佐伯に戻る峠道で、雪です。この県南で。しかも12月初旬に雪なんて。ここ何年もこんなことなかったように思います。大分はまず年内に雪を見ることありません。佐伯からの帰路、津久見までの高速で、まわりの山頂付近が白くなっています。大分にもどって別府を見ると、扇山が白くなっています。海上は白波だらけ。真冬の景色になっていました。3日4日がぽかぽか陽気で、半袖で往診したのがうそのよう。その前日の金曜日、佐伯で知り合い4人で飲んだのですが、篤姫のことが話題になりました。幕末もので、主人公が女性という普通なら絶対人気が出ないシチュエーションなのに、今回は見せますねえ、私も見逃さずに見てますと言うと、某先生は、あれは6時、8時、10時にBSや総合などであるんですよと言われます。そうですね。8時のを見逃したときに10時のを見たことがありますとお応えすると、いや、先生、あれを全部見るんです。ついでに土曜の再放送も見るから4回見るんですよとおっしゃられます。うーん、さすがにそれは凄いと思いました。
日曜は一日病院にこもって実験に明け暮れます。今回は前回やり残したものや、あらたに考えついたことなどやっていました。はっと気がつくともう午後7時半。これはいかんと片付けて、なんとか篤姫に間に合いました。病院ではBSがないので、一発勝負なんです。
12/1 ながらくこの日記までさぼってしまいました。10月後半から最近まで物凄く多忙だったうえに、イギリスに行っていたり、研究の方を進めなければならなかったり、しかも忘年会のはしりがあったりと正直ホームページの更新を忘れて?おりました。いつころから忘年会が11月に前倒しされるようになりましたかね。以前は12月になってからでしたよね。このページ、まあそんなに読者がおられるとは思いませんが、まだ更新もしてない、とお怒りになられた方、まことに申し訳ありません。
ということで久しぶりの更新です。
29日、30日と自動吸引装置についての実験を、東京から関係者を呼んで行っておりました。これまで自動吸引の試験に使う材料でいろいろ試行錯誤してきました。粘度の測定をすることによって、卵白がうすい透明な痰とほぼ同じ粘度ということがわかりました。卵黄の粘度はかなり高く、この中間の粘度の物質をどう手配するかというのが一つの課題でもあったのです。この9月から当院に勤務してくれることになった若手のSドクターが、これはどうでしょうと提案してくれたのは、「かたくり」。たしかにとろみを料理につけるときの定番です。東京から来られたメーカーの方に、自炊派がおられ、おそらく5%くらいのものが食用の上限でしょうというご意見で、早速彼が作ってみることになりました。5%のかたくり溶液は、水100mlに5gのかたくり粉を水溶きし、ゆっくり暖めて作ります。それを20度くらいに冷まし、粘度計にかけてみると、ほとんど卵黄と同じです。これで卵白から卵黄までの粘度を自由に作ることが可能になります。いま、二日間にわたる実験のデータを仕事の合間にまとめています。来年の厚労省研究班報告会での発表のためです。少し余裕ができたら、山本の主張の方もなんとか年内に更新したいと思って[は]います。
10/7 こんにゃくゼリーの危険性が指摘されています。この手の食品の代表選手は、なんといってもお餅で、毎年正月になると、お年寄りが大勢のどに詰めて亡くなったものです。しかしお餅というのは特定の食品会社の製品と特定できず、やりようによっては家庭でも作れる、ある食品形態です。もちろん病院ではお正月になってもお雑煮に大きな餅を突っ込むというような無邪気なことはしません。一応お餅だなあと理解できる程度に細分化した、元お餅のようにします。それでも危機感は残ります。
さて、GIGAZINEが危険な食べ物10傑という調査結果を発表してくれました。1位はやはりお餅。これはこれまでの理解どおりです。しかし、2位以下はかなり衝撃的な順位となっています。ここがもとのページですが、2位:パン、3位ご飯、4位すし、なのです。その後もあめ、だんご、おかゆ、流動食、カップ入りゼリー、ゼリーとしらたきとなっているのです。この調査の行われた年次でのこんにゃくゼリーでの事故は2件。それに対して一位のお餅は、168例だそうです。この数字は別にお餅のほうがこんにゃくゼリーの80倍危険だと示しているものではありません。このようなリスクの評価を行う場合には、バックグラウンドの大きさをもとに比較しなければなりません。お餅を食べる人の数に対する事故の件数の比率と、こんにゃくゼリーを食べる人の数に対する事故の件数の比率を比較しなければならないのです。それをオッズ比といいます。その値が推定できないのであれば、こんにゃくゼリーが危険とか意外に安全とかは言えないわけです。しかし、このリストをながめて、私はあることに感動しました。それは、かくも多くの主食が並んでいるにもかかわらず、なんと麺がない、ということです。細長い麺という食品形態は、ヒトの咽喉形状に対してかなり安全なのではないか、ということは窺えそうです。麺好きの私としては、これはやはりうれしい結果です。
10/4 10月3日、某県の難病相談員と、ALS患者の家族の方が病院に訪ねてみえました。平川プレートを実際に使っているところを見学したいということでした。病棟で実際に使っておられる患者さんたちに会ってもらいました。レスパイト入院中のNさんからは、「これはいいよ」と文字盤で言ってもらいました。来られた家族の方によると、その患者さんは一年半前から在宅人工呼吸に移行したようです。最近やっと慣れてきて、余裕ができたが、他の人がどのようにしているのかを知りたくなったということでした。そこで病院での見学のあと、在宅をしているSさんのところに3人で行きました。Sさんは気切バイレベルで、日常的に発語が可能な患者さんです。気管切開からの人工呼吸にもかかわらず、普通に会話できるのを見て、家族の方も、相談員も感心されていました。聞けば、その方のご家族も球麻痺があまりなさそうでしたので、バイレベルでカフエア抜きをすれば喋れそうでした。帰ることには、なんかいろいろ希望が見えてきたなあ、と言われていました。
さて、その晩、というか翌日早朝。そのSさんのお宅から訪看の緊急電話です。呼吸器のレジェンドエアがバッテリー不良のアラームが鳴っていて、コンセントを抜くと、即停止ですとのこと。まだ真っ暗のなか病院に出向き、予備の呼吸器を持ってSさんのお宅に急行です。無事機械を取替え帰ろうとしたら、警官に止められました。すみませーん、予行演習してますんで、ちょっとお待ち願えますか、と言われます。何の予行演習なんですかと聞くと、国体閉会式に皇族の方が来られるので、その予行なんです。もうすぐ車列が前の道路を通ります、と。警官から、ずいぶん朝早くからじっちゃん、ばあちゃん迎えに行かれているんですねー、大変ですねーと感心されました。病院車のワゴンで行っていたので、デイケアの送迎と間違われたようです。先導の白バイが来ましたよ。もうすぐ通過ですね、というと、警官の方、すみません、こちらを向いていないといけないのでこのままお話しさせてください、と言われます。へー、皇族の方におしり向けていいのと聞くと、規則で群集の方を向くようになっているんですと言われます。いや、それは、武器をもった警官が皇族に正対してはならない、という規則が今もあるのではなかろうかと・・・。日本史に書いてあった大津事件を思い出したりして。病院に戻ったら、空がうっすら青く明るくなりはじめていました。
8/31 そろそろ秋の虫が鳴きはじめました。先日別府から大分への海岸道路を夜通っていたら、山中からシャカシャカという大合唱が聞こえました。これはクツワムシです。クツワムシというと、図鑑などではガシャガシャあるいはガチャガチャと鳴くとされるのが定説ですが、実際に聞くともっと軽やかな音色です。とまあ外の虫の鳴き声なら優雅なのですが、最近SpO2モニターが似たような泣き声を上げるようになりました。この写真の赤丸で囲ったのがそのモニターですが、もとは中古で捨て値で売られていたノートPCです。CPUはインテルのペンティアム133MHz、HHDはわずか1.2Gでした。OSはなんとウインドウズ3.1と95のダブルブート。こいつをHDD10Gに換装し、地図ソフトとGPSアンテナをつけて、ヨットでGPSプロッターとして使っていたのですが、残念なことに海水のしずくがキーボードにかかり、使い物にならなくなりました。でもモニター専用として使うのなら大丈夫だろうと、OSをウインドウズ2000にして、タイコの無線SpO2システムを搭載し、もう4年くらいノンストップで使っています。なにせ遅いので、トレンド画面にするのにしばらく待たねばならないという不都合はありますが、この間一度もハングアップしていません。この時代のノートPCなんてハングやブルーストップは当たり前、それがまったく休憩なしで4年連続で動いているのですからそれは褒めてよいのじゃないでしょうか。それがついに常時ファンが何かに当たるかのような異音を出すようになりました。そろそろ寿命でしょうか。まあモニターですからデータのバックアップの必要はありませんけど。
8/26 暑い今年の夏も、意外に早く息切れがしてきました。夜など外にでるとひんやりとするほどです。セミも、ワシワシと元気に鳴いていたクマゼミがさーっと姿を消して、少し物悲しいツクツクホウシの出番です。7月下旬に入院、手術があって、8月はそのつけもあって結構忙しく過ごしてきました。お盆の間も、自動吸引装置の論文を英訳しようと、友人のオーストラリア人M君と病院に缶詰になってなんとか全文英訳にこぎつけました。でもこれから図や表の手直しなどが入りますからまだしばらく投稿までには時間がいります。日本発のこの技術を世界標準にするのが私の夢です。
気切をしぶっていたALS患者さん、ついにSpO2が不安定となり、NIVを開始しましtが、痰の吸引をすると60台まで下がるようになり、気切は受ける必要があると説得。了解を得て、今は夜間のみバイレベルでの補助。顔マスクも取れて、本人も楽になったと喜んでくれています。気切は避けないでほしい、これは人工呼吸や声を失うことではないと以前から言ってきましたが、今回も無事切り抜けられました。まだ気切にいたらないALS患者さん2名をこの夏から在宅で受け持つようになりましたが、不幸なことが起こらないよう注意して診てゆきたいと思います。
さて、ヨットをやっている友人たちは、この夏ずいぶん楽しんだようです。というのも例年と違い、この7〜8月はほとんど台風の危険がなく、別府のヨットクラブからは3艇が日本海に周り、レース三昧。ほとんど休みをとれない私からみると天国のようなシーズンですね。うらやましすぎます。そこで私は近場で簡単に遊べるシュノーケリングで楽しんでいます。近くにある佐賀関の海岸で泳いだり、佐伯の勤務のあとの帰り道で四浦半島に出て潜ってみたり。別にサザエとか取るわけではなくて、単に小魚の群れを見て楽しむだけですが、これがいいリフレッシュになるんですよ。本日は私の誕生日。いくつになったのかは秘密です。
7/29 本日退院し、午後から往診、外来、ケアカンファレンスと仕事に復帰いたしました。5月より胆石発作が頻回に起こるようになり、7月初めに入院予約し、7月22日一日を使って一週間分の往診全戸を回り、23日午前の外来をしたあと、生まれて初めての入院患者になりました。翌24日午後にいわゆるラパ胆(腹腔鏡下胆嚢摘出術のことです。ラパコレと呼ぶ病院もあります)を受け、術後経過も良好であったので、本日退院となったわけです。入院した病院は、この春新築移転したばかりで、きれいなもの。部屋も特室を用意していただいたので、まるでリゾートホテルに滞在しているようです。
とまあはじめて患者の立場にちこっとですが身をおいてみたのはよい経験でした。手術自体は全麻ですから全く感想もなにもないのですが、やはり一番つらかったのは当日の夜、痛くて身動きがつらいうえ、鼻から入ったマーゲンチューブがつらくて3時ころまで全く眠れませんでした。腹筋の痛みがあって咳ができない、寝返りしようとするときつい。術後一日目(手術翌日)、朝一番でマーゲンチューブを抜いてもらってすっきり。これでつらいことは終了と嬉しくなります。昼前バルーンもとれて、起きてよいというので、意外に腹筋の痛みも起きても軽いので、さっと立って、近くの自販機まで歩きイオン飲料を買おうとしたとき、両肩が抜けるような痛みにおそわれ、やっとの思いで部屋に戻りました。その日は寝ると腹筋が痛いし、起きると肩が抜けそうなくらい痛むので、30度くらいの半座位で一日過ごしました。食事も昼からおもゆがはじまりました。48時間からっぽだった胃にスープとおもゆが入るのが快感。晩は5分粥。術後二日目。昼からもう並食。やはり起きるとずーんと痛みが肩をおそいますが、腹圧をかけた状態での座位なら可能になりました。昼にはALS関係の方、夜には看護大関係の方のお見舞いがありました。時間がつぶれて嬉しい。夕方鎮痛薬を強めにしてもらい、なんとか立位が可能になりました。術後三日目、かなり改善しました。シャワーも許可というので、早速朝シャンです。昼過ぎに外出許可をもらい、自分の病院までタクシーでもどり、看護詰所に行って指示を出し、帰りは自転車で入院先に戻りました。さすがに自力で歩くと胸、肩、お腹に痛みが走ります。術後四日目。入院で丸一日すごすのも今日が最後。一日中資料を読んだり、DVDを見たりして過ごします。夕方病院のまわりを散歩してみましたが、昨日より楽に歩けます。良くなっていることを実感。夜はお風呂。ゆっくりつかりました。術後五日目。部長回診で傷のテープもはがしていただき、退院のゴーサインが出て、退院です。費用は18万3千円でした。大分協和病院に戻って、回診、往診、外来、ケアカンファ。普段の日課に戻れました!
7/12 1985年8月の日航123便墜落事故は、私にとっても昨日のように思い出される事故です。あの日、まだ明るい夕方、NHKの通常の19時のニュースが終わったとたん、臨時ニュースがまずテロップで流され、後は延々とアナウンサーが喋る映像につながっていったという記憶があります。これは墜落だな。全員死亡だなと、日本国中誰もがそう信じて疑わなかったと思いますが、翌朝生存者4名がいたというニュースは本当に驚きでした。なぜもっと早く現場にたどり着けなかったのか。自衛隊は大金使っているくせに夜間の捜索はできないのか。それなら夜間に他国から侵攻を受けたら朝まで待つのかなどと思ったものです。あの日の体験を地元新聞社の内側から描こうと創られたのが、今回上映となったクライマーズ・ハイです。昨夜これを拝見し、しかし、これはひょっとして前衛映画なの?と違和感を持ちました。大事故が地元で発生し、社内がてんやわんやになる、このあたりまではそうでしょう。怒声が飛び交い、人が走る。これもそうでしょう。しかし、部下が上司に向かってむき出しの憎悪をあからさまにし、大声で批判する、上司が部下に土下座せえと怒鳴りつける。そういうことまであったのでしょうか。心の中ではおそらくあった。しかし、そこまでは声に出さない、というのが現場ではないのかなと感じたわけです。思いっきり上司に向かって切れてやりたいのを、ガムを噛んでバーチャルに終わらせる、というCMがありましたが、むしろあれの方がリアリティあるのじゃないでしょうか。医療現場も同じです。突然の急変が発生したとき、人は錯綜しますが、そういうときこそ冷静なふりをしなくては駄目。間違っても怒声が飛び交う状態にしてはなりません。普段の日常の一コマに組み入れて、きちんと手順を踏まえていく精度が必要になります。それがプロの仕事というもの。あの映画は、本当にプロを描いていたのかと心配になります。おそらくは当時の事実としてのではなく、心象風景としてのドキュメンタリーなんでしょう。
6/12 かなり多くの方々に使われているアーガイル・アスパエースという気管カニューレのフレームの形状がこの春変更され、平川プレートの把持ゴム用スリットと干渉し、使えなくなってしまっていました。私の診ている患者にも一番多く使われているタイプなので、平川プレートの設計変更が急務となっていました。そこで把持ゴム用のスリットを外側に移し、外れにくいようL型の切れ込みを入れました。ただし、これまでのような把持ゴムのとめ方では、中央部のシャフトの部分で、フレームとプレートが密着せず開いてしまうことがありますので、把持ゴムをシャフトの部分でクロスして、フレーム全体を把持ゴムで抱きかかえるようなとめ方に変えました。この使用法を守っていただくかぎり問題ありません。病棟で約2ヶ月使ってみて、皆さんにお使いいただいても大丈夫との確信を得ました。昨日より案内ページを公表し一般購入可能といたしました。よろしくお願いいたします。
5/25 日本ALS協会総会の特別講演を終えて、最終便で大分に帰ってきました。帰りの飛行機は悪天候のため福岡に着陸変更があるかもしれないと脅かされましたが、低い雲のなかを視界ゼロで降り続け、最後に機内のモニターに明るい空港のランプが見えてきたときは嬉しかったですね。私は以前に福岡に着陸変更された経験があるものですから。こういう天候ではまず欠航するホーバーも運行してくれて、無事21時半には市内に戻れました。
さて、総会講演の方は皆さんどのようにお聞きになられたのでしょうね。今回は通常の呼吸管理の方法や、私のテーマである自動吸引器のことだけではなく、事前指示書と呼吸器停止の問題というのを最後の一項とさせていただきました。基本的なスタンスとして、事前指示書には反対、呼吸器停止も反対。しかし、というお話しをしてきました。バイレベルのバックアップゼロや、水栄養拒否については当然議論があると思います。しかし、この問題を考察するにあたり、呼吸器停止のみを取り出すというのは、僕は過激に過ぎると思うのですね。ある意味この問題を象徴している記号であることは認めるのですが、この問題をこれに集約してしまうことは、かえって議論を深めない、つまり感情的な反発や、法的観点からの不同意しか結論が出てこないと思うのです。この問題を提起している側の方の真剣度を認めるからこそ、私の対論があるとご理解ください。
講演では、気切バイレベルのカフ抜きによる発語に注目が集まったようです。また、私の提唱しているNIVと気切の併用ということも理解していただけたように思います。苦しいNIVとなったときに、TMVにするしかない、のではなく、色々なバリエーションがあるのだと分って欲しいし、そこで患者さんといろいろ試行錯誤することが大切だと思っています。そういう姿勢と事前指示書は相容れないと感じてしまうのが私の思いです。
5/12 今月24日の日本ALS協会総会での記念講演という大役をおおせつかり、準備に励んでいるところです。事務局長の金沢さんからは質量ともかなりの宿題をいただいているので、それをこなすのが結構大変。だけど、講演は50分の予定なので、語りきることができるのかと不安もあります。あまり頑張ってたくさんのスライドを作るとスライドを見せるだけで終わってしまうし、かといってスライドなしで語りだけでは印象にのこらないしと、このあたりの匙加減は結構難しいなあという感じですね。かなり難しいテーマでもある尊厳死や呼吸器OFFの問題も私なりの考えを述べさせてもらおうと思っております。
TLSの患者さんが5月初めに亡くなりました。脳萎縮も高度で、脳波もほとんど平坦。体温低下や腎機能低下などが起こってきました。恒常性の維持ということが不能な状態、すなわち脳幹機能まで低下を来たしたのではないかと推測されます。TLSとは、本当にロックドインであるのか、脳機能低下であるのか、きちんとした分析と評価が求められます。
このところ肌寒い日が続いています。仕事が終わって、ハーバーに行き、ヨットのエンジンを入れて、30分ばかりラナバウトしたりしています。別府湾が暗くなって空と海がつながったとき、別府の夜景が涼しい風のなか立ち上がってきます。仕事のストレスが氷のように溶けていく時間になります。
4/6 日曜のたびに雨という桜の季節になってからの皮肉が続いていましたが、昨日はなんとか曇ですみ、夕方には晴れ渡ってきました。東京より一週間は遅れた大分の桜も満開となり、名所やコースは多くの方がお出かけになられたようです。
冬の厳しい雪国では、雪が解けて一ヵ月後、満開になる桜を見て、感慨深いものがあるのだと思います。滅多に雪がちらつくのさえ見ない南国九州でも、桜満開の並木を歩くと身体が伸びるのが実感できます。でも、その時期はごく短く、暑いつらい夏の半年が来るのも覚悟せねばなりません。新年度最初のご挨拶です。皆様お変わりはないでしょうか。
先週は大分県南の佐伯市でALS患者さんとそのサポート部隊が花見を計画しました。前日の土曜は実にすがすがしい晴天でしたが、皮肉なことに当日は雨。佐伯には三人の在宅ALS患者がおられて、うち二人はHMV(在宅人工呼吸)です。主治医はいずれも長門記念病院のS先生。大分医大神経内科でキャップをされていたときは誰もが将来、助教授、教授になられる方と思っていたのですが、県南の景色と食べ物に魅せられ、地方病院の副院長となられた方です。誠意あふれるご人格で、山のような外来患者を診なければならない多忙なDrなのですが、毎年花見の集いを計画していただいています。2年前は大分と佐伯の合同花見も開くことができました。
そういえば15,6年前、私たちがはじめてALS患者さんのケアをするようになったとき、実行したのは、四季の移ろいを患者さんと一緒に楽しもうという取り組みでした。春の花見、夏の海、秋の紅葉、冬の初詣が大事なイベントでした。しかし、受け持つ患者さんが一桁から二桁になり、在宅も20名を超えたあたりから、そのようなイベントがなかなかできなくなってきました。ある意味、私たちはプロになったのかもしれません。しかし、この医療を始めるにあたっての初心のようなものをどこかで忘れたのかも知れないのです。佐伯のこころ温まる集いを見て、そのことに気づきました。初心忘れるべからず、ですね。
日本シャーウッドのアスパエースという気管カニューレがあります。これが新型になって、フレーム(羽根の部分)中央部の幅が広がり、平川プレートが装着できなくなりました。現在アスパエースをお使いの方は平川プレートをご購入されないでください。
3/16

ダールの呼気弁と人工呼吸器HT50の問題について

レジェンドエアの新しいホースがアイエムアイからデリバリーされるようになっています。これまでのレジェンドエアの呼気弁はバルーン式でしたが、今度のダール製の呼気弁は、ダイアフラム式と言われるものです。バルーン式というのは、呼気弁が膨らんで排気回路をふさいで吸気が気道に流される方式で、ダイアフラム(振動板)式は、膨らむのではなく、板が移動することにより流れが制御される方式です。古くからあるLP6はバルーン式、HT50はダイアフラム式です。これまでHT50の呼気弁は、オートピープがかかったり、呼気弁の位置によっては吸気漏れが発生するなどの問題点がありました。HT50の呼気弁は、上向に置くとオートピープが生じ、下向きに置くと吸気漏れが生じる傾向があります。したがって、横向きに置くとちょうどいいのではないかと私たちは考えています。オートピープはまだしも、吸気漏れは換気不全を生じさせるため危険です。今回のダイアフラム式呼気弁のダールのホースは、ある意味HT50と同じ動作傾向があるようなのです。ただ、吸気漏れはなさそうです。あるのは吸気抵抗です。この吸気抵抗はかなり問題で、例えば従圧式換気を行っていると、明らかに換気量が落ちます。先日あったケースでは、430ml程度の換気量が370mlくらいにまで減少していました。患者は苦しいと訴え、SpO2も低下が認められました。これは、なんと14%もの換気量の減少です。従量式換気では、気道内圧の増大という現象が生じます。もちろんオートピープがかかってしまうこともあります。どうもLP6のときのバルーン式が最も優秀だったように思いますね。
HT50の呼気弁のことを書きましたが、HT50は呼気弁だけでなく、本体に相当の問題があると思います。一つは換気量がサインカーブを描くように増減を繰り返すこと。最大気道内圧の限界を20にしたとき、LP6ならその値を取れる最大値を換気量に設定できますが、HT50は増減する値の最大値しか取れないことになります。つまり、例えばLP6だと一回換気量600mlが取れるときも、HT50では、500〜600に変動するので、中間値の550としか設定できないのです。もしこれを600に設定すると、換気量の変動は550〜650になって、650のときは当然気道内圧が20を越してしまうということになるからです。一定の換気量を送れない人工呼吸器が、よく従量式人工呼吸器として認可をとれたものだとちょっと驚いてしまいます。本国ではこのことは問題にならないのでしょうか?
2/23 今週は海上自衛隊のイージス艦「あたご」と、漁船の衝突事故が世間の耳目を集めました。私もヨット乗りの端くれではありますので、小型船と大型船の行きかいの問題は理解しているつもりです。ヨットは、実は海上ではオールマイティというべき存在で、こいつが帆走している場合は、どの位置で行きかおうが、動力船が避けねばならないということになっています。それは帆走中のヨットは自由に向きを変えられない、航行不自由船という扱いがなされているからです。しかし、帆走だけしている状態というのは、レース中でもないかぎり滅多にありません。多くは回航でエンジンを焚いて機走していますので、この場合今回の事故と同じように優先航行権の問題が生じます。私たちの海域では、豊予海峡が大型船が行きかい、緊張を強いられるところです。小型船で機走する場合、基本的に右側の注意を怠りません。右から出てくる相手船が優先権があるからです。左から来る船に対しては、根性勝負といったところですが、ここで案外怖いのは、こちらが優先航行権がある場合、進路、速度を維持しなくてはならない、ということです。このまま行くとかなり危険なことになりそうと思いながら、速度をそのままに突っ込むというのは大変勇気がいります。我々のヨットは、スピードがせいぜい6,7ノットの世界です。いざというときに逃げ切れる速力はありません。そのためかなり離れた位置で、危ない場合は、実は少し速度を落として相手を先に行かせることが多いものです。まあ、昼間でしたら、相手の位置の変化も、その船の姿が見えますから、見切れます。しかし夜間は難しいですね。以前、豊後水道を深夜横切ったとき、眠くなった目で混乱するのは、漁船の動きです。止まったり、スピードを上げたり、回転したりで、どっちに向かってくるのか判然としないことも多いからです。そういう状態になると眠気も吹っ飛んで緊張するものです。
ところが今回のあたごは、さすがはイージス艦といいますか、あくまでハイテクにこだわったようです。ひょっとするとかの艦のオートパイロットは、私らのヨットにあるような、進路をそのままにするだけじゃなくて、敵や障害物があったら自動で避けてくれるシステムなのかも知れません。というか、そのくらいはあのハイテクシステムですからあって当たり前でしょう。乗り組み員はわざと目隠しをして立っていたのかも知れません。でなければ、漁船団の中にオートパイロットで突っ込むなんて考えられないからです。もしそうだとしたら恐ろしいまでの勇気ある行動です。ですから、この事故は乗り組み員のヒューマンエラーではなく、ハイテク制御のシステムエラーかも知れないのです。となると軍事機密ですから、真実は絶対に明かしてくれないでしょうね。
1/8 昨日、本日と厚生労働省研究班、難病地域医療研究班(通称糸山班)の会議に出席してきました。同班のプロジェクトチームの一つが私が開発責任を務める自動吸引装置開発で、これまでの総括を報告するためです。今回の報告は、糸山班3年次の最終ということもあり、将来の夢への期待も含めて話してきました。
他の班、とくに九大の吉良先生の班は、最終報告にあたり、立派な冊子を作られ、それに比べると多少見劣りするかと思いますが、私たちもついに機器の薬事承認申請にこぎつけた、ということは、最終報告にふさわしいgood newsだと思います。今から思えば、目の前が真っ暗になりかけた気管壁吸着事故も、システムを洗練させるための必要な試練だったと思います。大分協和病院ではうまくいった臨床試験が、西別府病院では思いのほかうまくいかなかったことも、ポンプ変更への進化を促してくれたという意味から、これも必要な試練だったと思います。徳永さんも、高研も、よくこれまで一緒に走り続けてくれたと思います。むしろ私の方が、研究で終わる方が、事故の心配もせずにすむし、ここまでかなり楽しめたんだからいいじゃないか、と後ろ向きの考えになりかけたこともありました。後は無事に認可が取れることを祈るばかりです。とりあえず、正しい使い方をする限り、絶対に事故は起こらず、使用法での少々のケアレスミス程度では、命に関わることはない程度の完成度と安全性には達したと確信しています。
そして、夢の話とは。それは、私たちの自動吸引というシステムは、決して慢性期のみの対応ではないのではないか、という問題提起なのです。世界のICUで、人工呼吸における重症合併症としての肺炎の問題が取り組まれています。VAP(Ventilator associated pneumonia:人工呼吸起因性肺炎)のことです。この原因が、口腔内の細菌が挿管チューブのカフを越して気管内に流れ込んでいるのが原因と判明し、このことに対して声門下カフ上部持続吸引がトライされ、それなりの成果も示されています。しかし、動物実験では72時間の持続吸引で全例気管壁損傷が生じたとか、抜管後気管狭窄を来たしたとかいう重大な副障害もまた報告されているのです。また、声門下で持続吸引をした場合、口腔内の分泌液をむしろそこに誘導してしまうという問題も生じます。これらの問題を私たちのシステムは突破できる可能性を持っているのです。私の初夢は、私たちの自動吸引システムが、在宅や慢性期病棟のみならず、世界のERやICUでのmustとなることです。意義から考えれば、ただの妄想とはいえないと思っているのですが。
1/3

謹賀新年

新年おめでとうございます。今年の正月も相変わらずの病院暮ししております。小病院の悲哀を感じるのが新年と5月の連休です。さて、今年の抱負は、なんといってもこの数年間の課題であった自動喀痰吸引装置の市販化です。現在も宮崎東病院で臨床試験を行っていますが、本年度中にあといくつかの施設で実施したいと考えています。ポンプのエンジンをローラーからピストンに変更しての最初の本格的な長期試験となる国立病院機構宮崎東病院での臨床試験は、比較的順調に推移しています。年末お伺いして、患者さんにお聞きしたことは、200ml/分では、吸引に不満があったようですが、300ml/分の吸引量に引き上げてからは、「楽になった」というお話しでした。現在被験者になっていただいている患者さんは、ネットで自動吸引のことをお知りになり、是非使いたいという希望を持っておられたのだそうです。最初は期待があまりに大きく、失望感もあったが、徐々に冷静な評価が定まり、とくに吸引量を引き上げてからは良い評価になっているようだとは、主治医の先生のコメントです。看護師さんたちは、意識がなくて痰が多く、ジャバラに痰が吹き上げるような患者さんに是非使ってみたいとのことでした。私もそういう患者さんに最も効果が高いと思います。しかし現在の臨床試験においては、被験者が意識があり、コミュニケーションがとれるということが条件となっていますので、残念ながらそういう患者さんには現在のところ使えません。市販できるようになるのを待つしかありません。最も重要な副障害については、既に1ヶ月以上連続使用しているが、違和感を含め全くないとのことでした。気管粘膜吸着という重大な問題に対する、内側偏位型下方内方吸引孔という回答は、これまで3人延べ14週間の試験において全く気管壁吸着が再現されていません。チューブの耐久性と粘調痰閉塞時の吸引圧力維持に問題があったチューブポンプも、ピストンポンプと前方バッファータンクの設置でほぼ解消できたのではないかと思います。そしてもう一つの問題である、効果と満足感はどうでしょうか。吸引量200mlのときの結果はばらつきがあるものでしたが、300mlでの結果はかなり期待できそうです。宮崎東の主治医の先生は、これまで見てきて、大変有用な機械だと思いますと言っていただけました。年明け早々にある厚生労働省研究班会議にて、これらの結果を報告してきたいと思います。本年もよろしくお願いいたします。今年こそ皆さんの手元にお届けできんことを!

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