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2009年3月7日 skypeによる在宅モニタリングシステム

自動吸引装置の在宅での使用が可能かどうかという問題があります。自動吸引装置は、現状では薬事による認可が取れているわけではないので、あくまで研究として行っていますが、わが病院の倫理委員会の判断は、入院のうえ酸素飽和度や心拍数のモニタリングをしながらという条件で、長期試用について承諾をいただいています。ところが在宅でこれを用いたいという意見が出ました。いや、そういう希望は以前から多いのですが、今回の希望についてはやや深刻な問題があるため、「まだむりです」の一言では済ませられないということになっています。それは、在宅人工呼吸を行っていた患者の配偶者が、転倒、胸椎圧迫骨折をきっかけに、レベルが低下し、歩行にバランスを欠くような状態になられ、在宅人工呼吸管理のような重負荷の介護は難しいのではないか、ということになったわけです。日中はヘルパーの配置などにより、ほぼ完全にカバーできるようです。しかし、21時から7時までの間が、短期間ならともかく、長期となるとここ大分では、ヘルパー派遣は困難なのです。この時間、この方の痰の吸引はせいぜい2,3回です。これさえクリアできれば、配偶者がいてくれさえすれば、すなわち万一問題が生じたとき、吸引は出来なくても、連絡できる体制さえ組めればいい、ということになります。患者はどうしても帰宅したい。しかしそれが可能かどうかという判断はこちらに責任がある。そこででてきたのが、自動吸引装置を在宅で使い、研究を深めるとともに、患者の夜間の吸引を抑制するというプランです。現状では倫理委員会が入院に限定して承認してくれているわけですので、患者さん自身から倫理委員会に希望を出していただかねばなりません。しかし、議論になったとき、我々サイドとして、モニタリングの問題はどうするか、ということが残ります。そこで考えてみたのが、skypeを常時接続状態で患者の家と病院とをつなぐというものです。skypeは、インターネットを介してのテレビ電話のようなものです。skypeから一般の電話などにつなぐとき(skypeアウトといいます)は料金が発生しますが、PC同士でskypeをつなぐとき、全く料金は発生しないのです。何時間話していてもです。そのため、巷には「skype同棲」なんて言葉もあるようです。これは遠距離恋愛の恋人同士で、skypeの常時接続状態でお互いの部屋を映し続け、擬似的に同棲しているようにすることなのだそうです。無論両者の合意の上ですよ。でなけば犯罪です。これまでskypeのテレビ電話機能は、画面が小さかったのですが、最新のVer4ではなんと相手の映像をPCの全画面に出せるようになりました。それも相当詳細に見えます。先日試してみましたが、相手の掲げる雑誌の小見出しくらいは十分読めます。遠隔監視で十分な視野や解像度を出すためには、ネットカメラというものを設置しますが、初期費用やセキュリティで若干問題があるといわれています。しかし、skypeであれば、基本的に導入費用はいりません。もちろんカメラ機能のあるPCか外部カメラは必要になるし、ブロードバンド接続が必要になります。しかし、基本的にそれさえすれば1対1のコミュニケーションツールなので、セキュリティにも問題はありません。無論患者さん自身を映すことになるとプライバシイの問題が生じますから、映すべきは人工呼吸器の計器盤や、酸素飽和度などに限定し、自動吸引をするなら吸引ボトルの状態や吸引圧の監視を加えることでしょうか。音声は当然飛びますので、アラーム音のキャッチは可能です。しかし、問題は誰がこれを夜間も監視できるか、ということです。そこはやはり携帯電話などで異常を通報してもらい、skypeの画面で確認するという作業にならざるを得ないでしょう。以上、skype-Ver4を用いれば、比較的低コストで在宅監視システムが作れるなと思いました。来期の研究で実用になるかどうか試してみたいと思っています。