2011年3月10日 NPについての私見

先日、地元の看護大の担当者から、大学院課程であるNPコースへの講師依頼があった。その打ち合わせにおいて、小生のNPについての考え方も聞きたいということであった。大分県立看護科学大学は、看護学校たる大分県立厚生学院を前身とする。厚生学院は、以前県内の看護師のトップはほとんどここの出身というくらいの格があった。ここを出るというのは、県内においては特別な意味があったのである。この大学の草間学長が、熱心なNP推進論者であることはつとに有名である。このNP(診療看護師)という資格、あるいは教育について、県内のいくつかの病院は支援しているようであるが、全国的には批判的意見の方が根強く、いまどき「はだしの医者」でもないだろうとか、看護師の上に資格を重ねる必要があるのか、そのような資格を新たな国家資格たりえるのかというものが多い。とりわけ日本医師会はNPに対し批判的で、医師の仕事をしたければ医学部に入ればよいという意見だ。これは確かに一理あって、医学部を出て医師資格を取れば、前職が看護師であろうと、何であろうと問われることなどない。私も、看護師に限定して3~4年の過程で医師資格を取れる看護師専門医学部を作るほうが理にかなっているのではないかと考えたりしていた。でもこれをやると出来るのは医師であって、もはや看護師ではないから、看護関係者も面白くないのかもしれない。

NPというのはどこに重点が置かれているのであろうか。看護大からの説明を見ると、どうも薬の処方に重点が置かれているようである。確かに医薬品(ことに保険薬)の処方というのは医師の独占権であり、例え薬剤師でも処方はできない。もちろん看護師に許された業務ではない。高血圧症、糖尿病などで病状の安定している患者さんに薬の処方を行う、ということらしい。だけど、NPを目指す方にこそ聞きたいのだが、こんなことをしたいのか?と。安定していない患者さんに必要な薬を処方して、安定させるというのが投薬治療の醍醐味ではないかと思う。そのために病態の類推から薬物動態などの膨大な知識を動員して処方にあたるというのが、本来の薬の処方のバックグラウンドであろう。安定している患者に処方する、というのでは前処方の繰り返しに過ぎず、あまりに後ろ向きすぎるのではないか? それでは安定させたあとの下請け作業みたいなものではないか。いや、草間学長は、波風立てぬよう処方権を一部奪い取って、あとは(略)みたいなことを狙っておられるのかもしれない。ただ、私はそのことでNPとしてのプライドが確立されるとはどうも思えないのだ。むしろ、緊急手技であり、救命処置こそNPとして確立すべき技術ではないのだろうかと思うのだ。

救命救急士は、心肺停止患者に対して(医師の許可があれば)挿管可能となった。本当に救命救急士の挿管が、患者の予後に役だっているのかということは検証されていない(一部に異論がある)ようだが、これは医師の独占していた医療手技とくに緊急医療手技のキモを一部であるが取り上げたということでは画期的だったと思う。もっともこれを行うということは大きな責任がかぶさることを私は以前のコラムで心配した。説明に来られた方にお聞きすると、NPには、研修医レベルのモチベーションを持たすということであった。であるならばやはりこの挿管をものにすべきではないかと、私は指摘しておいた。看護師でもない救急救命士でさえ挿管をする時代なのである。NPというなら当然身に付けるべき技術ではないか。医学生が免許を取って現場に入り、最初に遭遇する大きな手技がこの挿管である。これをこなしてもはや学生ではなく医者になったという実感をもつものである。そしてこの手技が、大きな緊張を強いるのである。ERでも挿管にはこだわりがあるようで、「よし入った」という台詞を何回聞かされたことか。別の以前のコラムでERではなぜかエアトラックが紹介されないと書いたが、先日のER15では、ついにエアウエイスコープが登場した。Drゲイツ(Drブレナーだったかもしれない)がこれを使い、はっきり声帯が見えるぞと感動的に喋っていた。身障施設など医師の配備のない場所で、何か緊急のことが起こったとき、挿管して呼吸確保を行うことが出来れば大きなメリットとなる。安定した状態の患者に処方するなどというような後ろ向きなことを考えず、医師のいない現場で、医師の代りに責任を持って救命処置を行うというように自己認識した方がよほどNPを目指す方にとって有意義でかつ患者にも役立つのではないかと思う。そしてNPということの意味もより明確になると思う。もちろん責任も大きくなるが医師は、資格を取った瞬間からそれを当然受け持っているのだから、その一部を分担するくらいは当たり前であろう。

そのとき、挿管はちょっとどうかと、と言われる看護大からの説明者に、いいモノがあるんですよと、エアトラックを紹介しておいた。先日私も使う機会があったが、確かに挿管が劇的に安全、かつ確実になったと実感した。本当に5秒で確実に挿管できるし、声帯間に入っていくのが目視できるので、カプノメータで確認しなければならないという必要性を感じなかった。NPとは、エアトラックを服のポケットに差し込んで仕事をする、というイメージはどうだろうか。自分の責任で挿管をやりこなすことができたら、これまでとは違う自分がいることを感ずると思うが、NP志望者の皆さんどうだろうか。