2014年10月24日 脳血管インターベンションに乗り出せ

もし循環器内科医が、高血圧や狭心症の薬を出すことだけが仕事で、心臓外科医が血管治療を行っていたとしたらどうだろう。今の隆盛を極める循環器内科は存在しないに違いない。また、施設も限定されるため、患者も緊急血管内治療を受けることが困難になるだろう。冠動脈インターベンションといわれる積極的血管内治療は、完全に循環器内科の得意領分であって、今では心臓カテーテル治療は循環器内科の基本手技となっている。しかし、この分野はまだ若い。1980年代から日本でも開始され、瞬く間に全国に広がり今のこの隆盛となった。それまでは、循環器も内科は薬、外科は手術だったのだ。その1980年以前のような状態、内科は薬物だけで外科が手術、そのような事態になりつつあるのが、脳血管インターベンションである。

 脳梗塞とくに心原性の急性塞栓型の脳塞栓症の治療は、t-PA治療(血栓溶解療法)を3時間以内に行うことが原則である。最近これが4.5時間まで延長されたようだが、奏効率は40%程度であり、脳出血の合併症も発生するためリスクのある治療法ではある。ただしうまくいった場合は、全く後遺症のない回復も望めるため、いかに早く診断し、治療に移るかが重要な課題となっている。さて、比べるべきは循環器、冠動脈領域である。ここも昔はウロキナーゼ静注の時代があったが、今はまずカテーテルによるインターベンション治療である。ステントを入れたという言葉を聞かれた方も多いと思う。これもバルーン療法からステント、さらには血管形成と発展してきて現在の状況がある。劇的な効果があることもあり、多くの循環器Drがこの分野に参入した。その結果、この分野では内科がインターベンション、外科がバイパス術というように住み分けられることになった。

 ここ最近、脳血管の分野でもインターベンションが開発されようとしている。カテーテルや手技もかなり改善が進み、4時間を越しての治療も可能であるから、なかにはt-PA治療では望めなかった回復が、インターベンションによって実現している症例も報告されはじめた。考えてみれば、脳塞栓などある意味たかが物理的障害である。血栓を除去さえできればいいのである。そのためには二階から目薬の薬物療法より、直接アタックするインターベンションの方が、確実性が高いに決まっている。であるから、冠動脈もインターベンションが第一選択になったのである。うまく再環流できればこれほど恩恵の大きい治療はない。是非全国どこの地域でもなされるようになってほしいと思う。さらにこれは3時間や4.5時間の制限は必要ない。もちろん阻血による組織のダメージがあるから効果の問題は出るだろうが、まず速攻でこれを試す、という戦略が可能なのではないか。そしてそのためには人的パワーが必要である。今のところこの試験的な治療は、主に脳外科領域が行っているように見える。若き神経内科医は是非これに挑戦してほしい。脳血管インターベンションなら神経内科と言えるような状態(つまり冠動脈インターベンションと循環器科医との関係だ)に出来れば、今以上にこの領域を豊かにすることが可能である。症例の数が飛躍的に増えれば、器具の改良や手技の発展も大いに期待できるのである。なぜか現在の神経内科Drの多くは、この治療に及び腰のように見えるのは私の偏見であろうか。もし私が若き神経内科医だったら、絶対にやるだろうなと思う。のめり込むと思う。小生、一応これでも難病領域に乗り出す前は、腹部血管造影やインターベンションの経験があるのでなおさらそう思うのだ。膨大な知識と診断能力というのが神経内科医の特質であるが、現在のところ神経内科特有の手技というものがない。それが循環器内科や消化器内科に比べて魅力に欠ける原因となっていることは否めないのではないか。文武両道でいければ大きな魅力となるだろう。わからない、なおらない、あきらめないの3ない科を乗り越えるチャンスなのだ。