山本の主張

 

2018年7月17日 ALSと栄養について

2018714日に別府で開催された大分難病研究会で、都立神経病院脳神経内科部長の清水俊夫先生のご講演をいただいた。清水先生とは以前からの知己で、東京で研究会の後で一緒に楽しく飲んだことがあるし、昨年の東京での在宅人工呼吸International Coferenceでは一緒に演者を務めさせていただいた。また、大分難病研究会は今年で9回を数え、一般演題の数(今年は9題)、参加人数の多さ(約100名以上)など一地方にあってなかなか頑張っている研究会なのである。大分大学神経内科前教授の熊本俊秀先生の置き土産でもある。私もほぼ毎年演題を出させていただいているが、今年も難病の呼吸管理について一本出させていただいた。これは是非さらに検討して今年の難病NW学会に出そうと思っている。

 さて、清水先生の講演は、ALSの進行と栄養という課題であった。昨年夏は英語で聞かせていただいたが、清水先生がずっと追求されたテーマであり、海外での知見も広く紹介していただくなど非常に興味深いものであった。簡単にまとめると、ALSは、発病すると急激に痩せていく群があり、それはそうでない群に比べて予後が有意に悪いということだった。しかし気管切開人工呼吸がなされるとドラスティックな変化が生じて、今度は過体重に陥るという。さて前半の発病して急激に痩せることと、TIVとなると逆に太ることが対比されるが、この機序は何によるものであろうか。ストレス?確かにストレスは痩せる。それとも脳萎縮のようにALSの病態そのものなのか? 清水先生のお話ではALSの病態の一つと理解されているように私には思えた。

 さて私が質問したのは以下の内容である。呼吸器疾患の世界でも、肺気腫はがりがりに痩せるという古くからの認識がある。これは苦しくて食欲が落ちるからではなく、呼吸努力というのは多量のカロリーを消費して食事が追いつかなくなってしまうからだ。ALSにおいても、呼吸筋力が落ちて、呼吸に努力が必要になると痩せるのは当然のように思える。清水先生は、PCO240と正常なのに問題が生じていることが重要と言われた。なぜ正常なのに問題が出るのか。私は自発呼吸下において呼吸回数の増加や呼吸努力の増大によって正常値が維持されているが、実は身体には大きな負荷がかかっているのではないかと考える。発病早期から(実は呼吸筋力低下があり)呼吸努力が亢進している群がおそらく存在し、それによって栄養低下(つまり過剰代償に陥って栄養が不足する)が生じているのではないかと思うのだ。ちょうど肺気腫患者のやせのように。そういう群は、呼吸筋力低下が早期には出ていない群に比べて呼吸状態の悪化も早く、従って予後も悪いのではないか。ALSの進行は一様ではなく、たとえば上肢筋力低下が先行したり、球麻痺が先行したりなどである。そして呼吸筋力低下が先行することもある。それが患者の無意識の呼吸努力でマスクされ血液ガスでは正常となっても、結果として過剰な消費から低栄養を招いているのではないか、と推測できないだろうか。そして呼吸努力が必要なくなるTIVの段階で、その過剰な消費はなくなる。なぜなら呼吸という運動が完全に機械に置き換わって自発呼吸運動が不要になるからだ。そのため今度は一気に栄養バランスが過剰となり過体重になってしまうのではないだろうか。すなわち低栄養が原因で悪化するのではなく、呼吸努力の増大が低栄養を招いているのではないか。私には原因と結果が逆なのではないかと思えるのだ。

 もしALSの病態そのものだとすると、TIVという本来栄養とは関係のない介入は、結果に関係ないはずである。またストレスであればむしろTIV後の方が大きいとも考えられる。呼吸運動という観点を出せば、ALSの栄養と予後を一元的に説明できるのではないか、というのが私の考えである。皆さんはどう考えられるだろうか。