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総会講演
吸引が自動でなされたら、患者も家族も1日中の頻繁な吸引から解放されることになります。吸引をヘルパーさんに頼みたいのに、引き受けてくれる人が少ないという現実も問題ではなくなるのではないか。吸引が自動でなされたら、多い人では1日50回前後も必要とする吸引のたび、呼吸器のアラームと吸引器のバリバリ音にいらだった患者さんと家族の神経も和らぐのではないか。山本先生の自動吸引装置への期待に満ちて、会場は例年より3割増しの300人の参加者の熱気に包まれました。
山本先生はかねて、ハイボリューム・ベンチレーション(呼吸器の1回換気量の設定を増やして肺炎を防止する)の考え方によって、ALS患者の人工呼吸器療養に大きな問題提起をされました。今回の総会講演では、日ごろの人工呼吸器療養の実践から得られた集大成のお話をしていただきました。(会報49号に掲載の山本先生の「自動吸引装置の開発とALS患者の人工呼吸器療養について」もあわせてお読みください。)
合併症を減らす「ハイボリューム・ベンチレーション」
今日、私に与えていただいた演題は、「自動吸引装置の開発とALS患者の人工呼吸器療養について」でございます。どちらも大きなテーマですが、まず一番問題になるだろうと思われる呼吸管理について、じっくりとお話しをさせていただきたいと思います。スライドを使ってご説明します。
私たちは今、九州の大分市でALSの在宅医療に取り組んでおります。十数年間やってまいりましたけれども、その中で一つ提唱させていただいているのが「ハイボリューム・ベンチレーション」、大きな換気量による人工呼吸管理で合併症を減らそうということを、まずやってまいりました。
大分での10年間の業績
(スライド1)これは大分で在宅されている方々のスナップ写真です。今から3年前に熊本ALS協会事務局長が大分に来られたときに説明させていただいたときのものです。鼻マスクの方もいらっしゃいますが、人工呼吸器装着で初代の会長の本田昌義さん、それからご主人が事務局長をしておられる土居喜久子さんです。大分で呼吸管理を必要とする神経難病の方々を診させていただいています。
(スライド2)多くの方がALSですが、中には脊髄損傷の方が1人、脊髄小脳変性症の人工呼吸器管理の方が1名いますが、ほとんどの方々が大分で在宅ができています。ごく一部、まだ在宅に移行できないとか、在宅が破綻して入院になっている方がいらっしゃいますけれども、少なくとも大分市においては、在宅での人工呼吸器による療養というのは決してめずらしくないという状況であります。ただし、今から10年前はこれがゼロだったわけです。うちの病院は大分市内の中心部からちょっと離れていて、患者さんが市内全域に点在しているような状況がありまして、これを往診で週1回ずつサポートさせてもらっているという状況です。
患者さんと一緒に生きて行くこと…
(スライド3 次頁)この方は、私が初めてALSの患者さんとして診させていただくことになった土居喜久子さんです。この方にはいろんなことを教えていただきました。私は奈良医大の出身ですけれども、当時神経内科という教室は奈良医大にはなくて、こういう病気は勉強によって知っていましたが、実際の患者さんを診るというのは初めてでした。まだこの方がご自分の足で歩いておられるときに初めて来られて、それから目の前で悪くなっていかれる状況をずっと診て、呼吸器内科医として対応していきました。その中でいろいろ教えていただいて、その後のいろんな呼吸管理に役立っていると私は感じております。また単に医療というだけではなくて、こういう患者さんたちと一緒に生きていくということはどういうことなのか、ということを考えさせていただきました。
今から13年前になりますけれども、初めて病院から出て、家にちょっと帰ってみようという取り組みをいたしました。そのとき地元のテレビ局が取材してくれましたので、まず最初にそれを皆さんにごらんになっていただきたいと思います。(ビデオ)
最初に診たのは土居さんだけだったものですから、時間もあってこの方といっしょに病院の外に出て行くという取り組みをしました。こういう患者さんたちとどういうふうにおつき合いするか、つき合い方といいますか、そういうことを勉強させていただいたわけです。たった30分の帰宅だったのですが、当時は病院から出ること自体が本当に冒険だったという感じがしました。今は皆さんどんどん在宅されていて、何ということはないのですけれども、最初始めるときにはかなり緊張したのを覚えています。
本田さんから始まった在宅人工呼吸器療養
大分での在宅のキーパーソンは本田昌義さんでありまして(スライド4 次頁)、この方は大分県支部の初代の支部長です。人工呼吸器になったときから家で療養するとおっしゃっていました。わが国は94年あたりからやっと健康保険で在宅人工呼吸器療養ができるという体制でしたから、そのころから家に帰るということを言われました。この方が最初に95年に帰られて、その様子を見て、彼ができるのなら私も帰りたいということでどんどん増えて、現在は二十数名が在宅人工呼吸器療養という状況になっております。たとえば、隣の別府市から家を売り払って大分市に療養のための家を建てられた方もおられます。うちの病院一つですべてまかなえないので、訪問看護ステーションとかヘルパーステーションとか、多くの他の施設の方々がいろいろとかかわってくれて、現在があります。関わってくれている訪問看護ステーションは6〜7カ所あります。いまALS患者さんに対する訪看は2カ所まで訪問できるようになりましたので、まずどこかの訪看が勉強して入っても
これは人工呼吸器の患者さんのデイサービスです。毎週必ず迎えに来てくれて、お風呂に入れてくれる、そういう取り組みをやってます。いま約7〜8名の方が週に1回か2回、このようなデイサービスを受けているという現状があります。
気管切開患者の身障施設入所
それからもう一つは、これはある意味では非常にホットなニュースなんですけれども、大分でも初めて気切患者の身障施設での入所がこの5月からやっとできたという状況があります。これをちょっとごらんにいれたいと思います。
気管切開して人工呼吸管理となった患者さん、たとえば一人者だったらどうするのかという問題が昔からあったんですね。この方も離婚されて一人者でした。鼻マスクの段階で身障施設に入ることができたというつながりで、気管切開になったけれども何とか施設にもう一度入れてくれないかということで、数カ月いろいろ話をしたり練習したりして、この5月から入ってもらうことができました。
大分県支部の中では当初ALSの患者さんのグループホームをつくろうという志向性もあったんですけれども、現実的にALS患者さんだけをみていくようなグループホームが経済的に成り立つのかどうかとか、また物理的にできるのかという問題もありまして……。私としては、既存の各身障施設に最低1人はこういう形でみてくれれば解決がつくのじゃないか、ということでいま話をしているところです。一つはこの間の吸引問題ですね、医療職じゃなくても吸引ができるのだと認識していただいたことは大きかったと思っています。
ALSの人工呼吸器、本当に泣かされる
ここから本題に入らせていただきます。まずハイボリューム・ベンチレーション。私の場合はかなり前から提案させていただいています。入院中は配管式の呼吸器を使っていますが、在宅になるとAC電源の呼吸器が使われています。最近は小型の人工呼吸器も出てきています。
最初に土居喜久子さんを診させていただくまでは、私は神経内科が専門ではございませんで、呼吸器をやっておりました。特に大分では珪肺、塵肺というのが非常に多くて、そういう方々の医療をやってました。それはもう悲惨な肺の状態で、最後は呼吸器を着けても1週間で亡くなるというようなことが多かったんです。それに比べて、ALSの患者さんの肺は本当にきれいな肺だなあと思っていました。ALS患者さんの人工呼吸は別に全然難しくないだろうというイメージをもっておりまして、気管切開や人工呼吸器になっても、数段簡単だろうとタカをくくってやり始めたというところがあります。ところが実際にやってみると、本当に泣かされるハメになってしまいました。
ハイボリューム・ベンチレーションで無気肺予防
土居喜久子さんは1991年5月に気管切開をして人工呼吸器を装着しています。最初の3〜4か月はまあまあよかったんですが、9月に1回目の肺炎を起こして、次に10月。その後はちょっと良くて、次は翌年の2月、3月、4月、5月、6月、7月。毎回治すのですが、またすぐに肺炎が起こってくるという状況になりました。そのため本人も苦しみましたが、本当にこちらの方が泣きたいというぐらいの感じになったんです。この段階では1回換気量400ccということでやっています。呼吸器内科の中でも1回換気量400ccというのはある意味で常識、みたいな線がありまして、これで始めてみたんです。たしかに良いときには一見、血液ガスの値も良いのですが、あまりに肺炎が続くものですから、何か手がないかということで試行錯誤しまして、1回換気量を600ccに増やしてみたらどうかと。そうしたところ、2月、3月、4月、5月、6月、7月と続いていた肺炎がピタッとここで止まったんですね。半年間なくて、12月、次はほぼ1年ない。その次はちょっとありますけども、ここ(95年)から先は肺炎は全く起こらなくなっているという状況に押し込むことができました。
それで、それ以後の管理を、先ほど言いましたハイボリューム・ベンチレーション、つまり肺活量を大きくした管理というものに変えていく形にしてまいりました。
これは今から5年ぐらい前、沖縄であった呼吸管理学会で発表させていただいたデータなんですが、大体900cc、800cc、ちょっと少なくて760cc、こういう感じにボリュームを増やしました。通常は400ccぐらいのところが非常に多いものですから、最初こういう値でやってるというふうに学会に出したときに、何というむちゃなことをするんだとかなり叩かれたのです。それでちゃんとデータを出さなきゃいかんと思って、10年間ほどデータを集めて、このような形で発表しました。
私の標準的ハイボリューム・ベンチレーションのやり方
実際この管理にしてから、それから何年もたっているのに、無気肺はなかったのですね。無気肺がないということは、常に痰が出されているということですから、肺炎も起こしにくい、そこにつながっているのではないかと考えました。
その当時のデータですけども、体重1kg.当たり換気量15cc、つまり40kg.の方だったら600ccということになります。そういうものを基準にしていいのではないかということです。ただ、たとえば800ccを目標にしても、最初から換気量400ccの方に800ccをドーンと入れたら、苦しがってまず無理なんです。で、まず1分間600cc×16回ぐらいだったら大丈夫かなということで、その後50ccずつ1週間ごとに増量していって、回数を1回ずつ減らしていって、最終的には800cc×12回、またそのあと慣れてきたら12、11、10回と一分あたりの呼吸回数を落として、最終的に800cc×10回という形にしていくのが、私の標準的なハイボリューム・ベンチレーションのやり方です。
気道内圧は20cmH₂O以下に
この場合問題になるのが、気道内圧が上がることに注意していただかないといけないということです。たとえば400ccを1秒で入れると気道内圧は上がらないかもしれませんが、800ccを1秒で入れたら気道内圧がハネ上がります。これを抑えるために、1秒ではなくて2秒使ってゆっくり入れるということですね。多いのは800ccで1分間10回ぐらい、1回の吸気時間を2秒ぐらいとるという形でやると、患者さんも苦痛なくそのボリュームが入ります。大体、最高気道内圧は20cmH₂O以下にするということがコツだろうと思います。
少なくとも1回換気量600ccは超してもらいたい
ただ、最近私かなり軟弱になりまして、1回換気量800ccとか900ccはあまりねらわないで、もう600ccあればいいかな、という感じで、ちょっといま実はパワーダウンしているところです。400ccでは絶対ダメだという確信は今でも持っています。少なくとも600ccは超してもらいたい。あとは患者さんの状態を診ながら、気道内圧が上がらないように、やや低めでやってるほうがいいのではないか。6年も7年もハイボリュームで気道内圧が高い状態を続けますと、やっぱり肺に一部荒廃が起こってくることもありまして、できれば20cmH₂Oといわずに16cmH₂Oとかですね、気道内圧はちょっと低めにやりたいなというのが最近の感覚です。
とにかく30cmH₂Oを超すような高い状態を放置してはいけないということです。ふだん20cmH₂Oでも、たとえば風邪をひいて痰が多くなったりすると、わりと簡単に30cmH₂Oを超えてしまうことがあるのですね。それを放置するととても危険です。何が危険かというと、一気に肺全体が真っ白になってしまいます。これは肺炎が広がったということより、間質性肺炎を惹起させてしまうということですね。そのことがなかなかわからなくて、抗生物質を使っても良くならずに亡くなっていくというケースが結構あるようです。
ハイボリューム・ベンチレーションについては一応論文にしておりまして、『日本呼吸管理学会誌』の2001年に出ていますので、必要ならご参考になさっていただければと思います。
換気量を下げて酸素付加、ステロイド使用
(スライド5)
この方は私が診ていた患者さんではないのですが、在宅の患者さんで、換気量が確か800ccぐらいだったと思います。肺炎を起こして状態が悪い、ドクターからもう無理かもしれないと言われたということでうちに電話があったケースです。そこの先生とお話しして、「先生、とにかくすぐにボリュームを下げてください」と。聞いてみると、気道内圧は40ぐらいまで上がっているという話だったんです。「どんどん下げて、とにかく気道内圧は30cmH₂O以下にしてください。それからすぐステロイドを使ってください」と。ちょうどそのときベッドが空いてなかったので、1週間待っていただいたのですが、そのあとでうちに入院してきたときの状態がこれです。もう硬くなってしまった肺があります。これをさらに換気量を350ccくらいに下げて、もちろんそのあと酸素の付加も必要ですが、とにかく気道内圧を20cmH₂Oぐらいまで下げて、それからステロイドを使うということで、ここまで改善したんですね。もちろんあとは残ってしまいましたから、もとの800cmH₂Oには戻すべくもありませんでしたけれども、現在はまた在宅へ酸素なしで帰れるという状況があります。
ハイボリューム・ベンチレーションのエッセンス
こういうようにハイボリューム・ベンチレーションというのは、無気肺をつくらない、その意味から肺炎を抑えることができるということがありますが、いざ一旦風邪などをこじらせて悪化させたときに放置すると危険だということは、これは理解していただかないといけないと思います。その辺の認識の問題も含めて、換気量800ccとか900ccという形でやる場合は、よほど呼吸器のことをよくわかっているドクターでないと手を出さないほうが良いのではないかと最近は思っています。600ccぐらいの緩めの管理で、少々問題が起こってもあまり大変な状況をつくっていかないというレベルがいいのかなあと今は思ってますが、600ccでもおそらく無気肺は、たまに出ますけれども、治療によって改善し得る範囲じゃないかなというふうに思ってます。もちろん600ccでもいったん肺炎を起こすと気道内圧が上がりますから、それを放置すると、レントゲン写真を撮れば、肺が真っ白の状態になる。そういうことを避けるために、悪くなったときにはボリュームを下げて、気道内圧を下げる。少しでも白くなっていたら、抗生剤だけではなくてステロイドを使う。大体これがハイボリューム・ベンチレーションに関するエッセンスです。
鼻マスク式呼吸補助装置(NPPV)に厳しい思い出
もう一つは鼻マスク式呼吸補助装置(NPPV)ですけれども、現在これが非常に話題になってます。私たち呼吸器科医の立場からいいますと、これが最初出てきたときに「大変だ」と思いました。たとえば肺気腫とか、慢性気管支炎のひどい方に、急性期は挿管して人工呼吸器につなぐのですけれども、目を覚まさせて、管を抜いてNPPVを着けると暴れるんです、「苦しい」と言って。「頼むから外してくれ」と頼まれることもあったりするなど、そういう意味で厳しい思い出がありました。
鼻マスク式呼吸補助装置を積極的に使用
そういうことで、ALS患者さんにこれを導入するのは、私もちょっとためらわれたのですが、最初に導入した患者さんは、PCO2が80ぐらいに上がっている状態で、本人が「苦しい」と言い出したのでこれを着けたんですけれども、3時間後には鼻歌を歌ってるんですね。それを見て、これはALSの患者さんにはすごく合うのかなと思って、それ以後、積極的に私もこれを使っていくというやり方をさせていただいております。
在宅人工呼吸件数は増加
これはちょっと古いデータですが、2001年のデータでは1万件ぐらい、在宅人工呼吸が非常に増えている、しかしその多くはNPPVのものだというデータがございます。もちろん気管切開の在宅も増えてまして、2001年のデータでは2500件という数字になっています。合わせて合計1万を超しているという現状があります。さらに今はもっと増えているのではないかと思います。
NPPVはわからないとよく聞きます
これは最初バイパップという名前、商品名が有名になりました。これは鼻マスクを着けている状態です。で、この方はニップネーザル、これはテイジンの機種です。やはり鼻マスクでこのような形で使います。
人工呼吸器の場合だと、たとえばダイヤルで1回換気量を何ぼにする、回数を何ぼにするということで、簡単に決められるんですね。ところがNPPVがわかりにくいのは、決めなければいけないことが多いので、どれが一番いいのか、医者もなかなかわからないということをよく聞きます。ぼくら呼吸器科医でも、慢性気管支炎等の患者さんに接合するというのは非常に難儀だったのですけれども、ALS患者さんは例外的に簡単なんです。IPAPとEPAPを決めていきますが、これは吸気のときの圧と、呼気のときの圧です。EPAPは一番低い値でいい、それも2.0がいい。ここに固定してしまえば、あとの呼吸状態で、このIPAPを調整するだけでいい。それだけでほとんど適合します。いま医大から、どうしても合わないということで私たちのほうに回ってくる患者さんが結構多いのですけれども、間違いなく医大側で合わせた値よりも低い値で必ず合います。そのコツはEPAPを2.0にすることです。
それはなぜかといいますと、慢性気管支炎等は、息が吐きにくい状態があるのです。それによって換気が落ちてくるので、EPAPを上げないといけない。つまり呼気の圧を上げて気道を広げてやらないといけない。そうでないと気道がふさがるという問題があります。ところがALS患者さんは、肺は本当はきれいなんですね。少なくとも慢性気管支炎等の患者さんの肺に比べたらずっときれいなので、全く圧をかけなくてもいいぐらいという状態があります。
テイジンのニップネーザル
ただもう一つの問題がありまして、実は2.0が使えるこういうNPPVの機種というのは非常に少ないのです。現状でみなさんが使える機種は、先ほどお見せしたテイジンのニップネーザルしか実はない。ニップネーザルでEPAP2.0を使って、あとは呼吸を見ながら合うか合わないか、ファイティングが起きないか、その辺で一番低いIPAPを決めるとまずいけます。ほとんど酸素の付加もなくいけるようになります。
球麻痺のない患者さんの気管切開=声の喪失は起こらない
もう一つは気管切開の問題です。私は、気管切開イコール人工呼吸器ではないということを、以前から強調しております。それと、気管切開は声の喪失ではないということですね。この二つによって気管切開を拒否する方がよくいらっしゃるのですが、「それはあなたの勘違い」ということですね。そのように説明させていただいております。球麻痺のない患者さんというのはしゃべれたり、飲み込んだりできるんですけれども、それでもやっぱり痰が出せない状況というのは必ず起こってきます。そのときに痰を出すために大変苦しい思いをされる。苦しい思いをされるのは患者さんだけではなくて、介護者も苦しいという状況が出てきます。それを気切するだけで20分かかった痰取りがわずか5秒でできるという状況になります。スピーチカニューレを使ってふだんはフタをしておけばいい。そうすれば今までどおり鼻マスクを使って、今までどおりしゃべることも飲み込むことも可能になります(スライド6)。
「生きていこう」と決めた患者さんには早期の気管切開
それでも、やっぱりこういう方々も悪化するときがあります。突然悪化することもあります。そのときにALS患者さんの挿管というのは、実は大変むずかしいんです。口が開かないときがあるのですね。こういう場合でも、気切を先にしておけば家族でも緊急用のカニューレを入れて、アンビューバックを押して助けることもできるということです。私たちはやはり「生きていこう」と決断してくれた患者さんの命に対しては、つまらないことで絶対に落としてはいけない、と思っています。そのために安全には安全をという形でそういう体制をとっていかなくてはいけないと思っていますが、一つは気管切開を早期に行うことが、間違いなく安全を担保することになると思っています。
気管切開した後の声の問題
もう一つは声の問題です。今、カニューレを着けても、ここ(カニューレの入り口)に一方向弁を着けることによっていくらでも声は出せます。この方は大きな声は出ませんけれども、最初は声が出なくなるから気管切開はいやだと言われていた方ですけれども、苦しくなって気管切開をされた。まだこの段階では酸素を気切孔から流すだけで済みましたけれども、声を取り戻したいという希望があったんですね。ちょっと聞いてください。(ビデオ)
もう一つは、たとえばここにいま一方向弁を着けてますけれども、その上に気管カニューレからニップネーザルで管理しています。この場合、カフなしカニューレで、空気は入るけれども出ないという状態でしてやると、またこれでも声は出ます。
この方法は一時的にはできるのです。ところが、時間をおくと抜けてくる風で鼻が痛くなってくるということで、長時間はなかなか難しいところがみられます。それでもう一つの方法は、カフエアーを少し抜けばしゃべれます。
約4年間鼻マスクを続けてこられた患者さんは、今年2月に気管切開されて、そのあと訓練してカフエアーを少し抜いてしゃべるというのが獲得できました。そうなってくるともう鼻マスクには戻りたくない。いま施設に入っておられますが、コミュニケーションできるということは介護者にとっても非常にやりやすいということで、今こうして維持できています。
ここに着けている気管カニューレと接続するマウントは、ふつうのマウントじゃなくて、吸引器を入れる孔を開けたままにして、開放している状態です。そこからリーク(空気漏れ)を起こさせるために、開けた状態で使います。球麻痺がなければ、しゃべれるということも人によってはできるんだということになります。
私が考えるALSの呼吸管理戦略
(スライド7)私が全般的に考えている一つの戦略なんですが、ALSの方々に対してどういうふうに呼吸管理を進めていくかというのを表現したのがこの図です。
やはりまず何といっても球麻痺がある方とない方、これはもう全然ちがうということがあります。球麻痺のない方はかなりNPPVを持続できますけれども、最後は気管切開とNPPVを併用しよう。そうすることによって鼻マスクは装着しますけれども、今までと同じ生活ができる上に痰は取りやすい。それから球麻痺のある方は、なかなかそういうわけにはいかなくて、こういう気管切開のバイレベルをしようということを提唱していました。
ところが先ほどごらんになったように、気管切開部からのNPPVでもバイレベルでしゃべれるんですね。そうすると、わざわざマスクにしなくてもいいじゃないかという方も出てきました。たとえば先ほどしゃべっていた若い患者さんは、肺活量は計ってみると5%もないのです。それでもあのように球麻痺がなければ維持できるということがあります。バイレベルを使う利点は空気が漏れても、ある程度補充できるということです。あれを普通の人工呼吸器でやってしまいますと、肺に入ってる空気が漏れてしまう。バイレベルを使うことによってそれが補充されて、しゃべることができるというふうにご理解いただきたいと思います。球麻痺のない方は鼻マスクにこういうふうにしてもいいんだということです。球麻痺のある方はこういうバイレベルの器械を直接気切孔から入れるということになります。
人工呼吸器の事故対策 @無線アラーム
あとは、やはり事故の問題。これは本当に問題だと思います。カニューレのところから外れる、こういう事故はずっと以前から起こっていまして、全国で年に10人とかいう形で亡くなっていますが、改善されません。多くの方はこのような形でテープで留めるうな対応をされていますが、もちろん万全ではない。私たちは病院として、もし事故を起こしてしまえばこの医療が否定されることになりかねないと思って、かなり神経を使っています。一つは今、無線アラームを装着しています。これは個室等に入っているとアラームが聞こえにくいという問題があります。ここにアラームの鳴るスピーカーからマイクで音を拾って、詰所のほうへも鳴らすというシステムです。無線で飛ばすのですね。有線のほうはメーカーから供給されますが、そのたびに線を張りめぐらせたり、コネクタが曲がったり折れたりして使えなくなることがありまして、高価な上にすぐ使えなくなって、とても困るということが多かった。
私と一緒にずっとこの問題をやってるエンジニアの徳永さんですが、彼に作ってもらったのが、この無線アラームです。最近いろいろ引き合いがあって、「よく売れてるよ」と言ってました。
人工呼吸器の事故対策 ASPO2アラーム
それともう一つは、これはタイコヘルスジャパンから出されている無線のSPO2(血中酸素飽和度)のアラームです。病院のリスクマネジメント委員会の中で、自分の手でナースコールを押せない呼吸器の患者さんは絶対に着ける。要するに例外を認めないということにしています。どんなことが起こっているか、起こったときの記録です(スライド8)。
ここで外れたのですね。一気に下がってきます。SPO2が100%から50%まで約1分半で下がってきます。これでアラームが鳴った記録が残っています。あわてて看護師が走っていって、すぐアンビューを押して、回復していますけれども、もうちょっと遅かったら心停止ということになってしまうわけです。 (スライド8↓)
在宅の方はある意味で安全なんです。横に介護者がいるわけです。誰かが見ている。一番危ないのは実は病院なんです。横に看護師が始終いるわけがない。呼ばれない限り看護師は来ない。異常が起こらない限り看護師は来てくれない。病院はそういう意味で一番危険なんです。在宅よりももっと危険なんです。その危険さを埋め合わせするために最低限こういう装置を持つ必要があると思っています。
医療機器メーカーの対応は
メーカーとしては恐らく対応しようと思ってると思います。たとえばこれはポーテックスのカニューレの新しいタイプですが、外れないように引っかけるところがあります。ちょっと工夫すればすぐにできるのですが、それをなかなかやろうとしません。それはなぜか? それは自分たちで勝手な規格を作って、それで事故が起こったら責任問題になってしまうからなんですね。前にメーカーに作らないかと聞いたことがあります。そうしたら、規格がある中で規格どおりに作ったら自分たちの責任ではないけれども、規格にプラスアルファをして何か問題が起こったら、即自分たちの問題になる、だから作れない、というような事情を聞いたことがあります。したがって各メーカーにしてみたらかなり難しいのかなというふうに思ってます。そういう意味では国が音頭をとっていただきたいところなんですが、なかなか動きが悪いという状況があります。
停電にバイレベルは止まる
停電で問題になるのが、バイレベル(NPPV機器)が止まるんですね、一瞬で。内蔵電池がないわけです。それでぼくたちはバイレベルを使うに当たっては必ずこれを付けろと(スライド9)。これが何か知ってる方はいらっしゃるかと思いますけれども、パソコンの無停電装置です。要するに電池なんですね。これを付ければ、この程度の機械であれば1時間半は止まりません。その間に他の電源を持ってくるとかの対応が可能になるということです。私たちも経験がありましたが、停電して、その場で苦しみ始めるものだから、あわててしまいました。
気管切開の場合には簡単にアンビューを使用して支えることはできますが、NPPV(鼻マスク)の場合はなかなか難しいです。そういうことで、必ず無停電装置は付けるというふうにしてます。
アンビューバックは忘れない
これは絶対に忘れてはいけないというのが、このアンビューバックですね。特に在宅人工呼吸器の場合、機械はいつ止まるかわからない。そのときにこれが周りにないと大変です。介護者、たとえば奥さんは知っていても、ヘルパーの方はわからないですね。この前もありましたけれども、外出するときにこれをちゃんとカバンの中に入れてあった。突然止まってしまった。ヘルパーが二人しかいなかった。そのときにわからない。患者さんは失禁するまでいってしまったということがありました。そういう場合は、それが見つからなかったら、「カニューレから直接息を吹き込め」と今は皆さんに話しています。
私もレントゲン室に患者さんを移動させたときに、突然呼吸器が不調になってしまって、アンビューを下ろしてなかったもんですから、一生懸命口にくわえて吹いたことがございます。十分それでいけます。まずアンビューバッグ、なかったら口で吹き込む、そのことをヘルパーさんも含めて徹底していただきたい。家族はわかってるんです、どこにアンビューがあるかは。代わりに入ったヘルパーさんが皆知ってるとは限らない。だから最低限支える方法をきちんと教えていただきたいというふうに思います。
せめて夜間の痰取りは解消できないか
私たちが診ている患者さんのお宅に、目覚まし時計が6個ほどあるおうちがありました。私、それを見て、「時計の趣味がおありなんでしょうか」というバカなことを聞いてしまったことがありまして、「違うんです。2時間おきに鳴らすようにしてますが、1個じゃ起きられんから、場所を変えて2個鳴るようにしてるんです」と家族から言われてですね、本当に不明を恥じました。せめて昼間大変なのは仕方ないけれども、夜間の痰抜きは何とかならないだろうか、というふうに思ったのがきっかけです。
2000年から開発を始めました
1999年にエンジニアの徳永さんといっしょにこの問題を語り合って、2000年にALS協会から補助金等をいただいて始めました。なかなか最初はうまくいかないという状況で、ちょっと研究が止まってたときに、吸引問題が皆様方の運動の中で出てまいりました。その中で厚生労働省や日本看護協会のほうからもう一ぺん進めないかということでお話をいただきまして、2002年度は日本訪問看護振興財団から研究補助金をいただけるということで、それから2003年、2004年に関しては厚生労働省の各研究費をいただけるということで、いただく以上は絶対やれと命令されてるようなもんですから、それをやらせていただきました。
最初はたいへんプリミティブな方法です。皆さんだれでもお考えになるように、ふつうの吸引器を使って気管内に残した吸引カテーテルで吸引ができないかということを考えてました。この辺は誰でも一番に思いつきます。これは2000年のころだったと思いますけれども、ペットボトルの中にカニューレを突っ込んで痰を引く。当初の方式は普通の吸引器で電源をコントロールする。この当時はタイマーで、10分おきとか、15分おきの間欠的な吸引で、カテーテルを気管内に留置するやり方で始めます。夜間は結構これでもうまくいくのですが、やっぱりさまざまな問題があります。
一つは、このような形で突き出しているということは、長期的には常にそれが気管内に接しているわけですから、そこから吸引すると出血の原因や潰瘍をつくるのではないかという問題があります。
まず一つ考えたのは、カテーテルを気管カニューレ内に戻して、今と同じことができないかとやってみたんですが、これが案外できてしまうのです。そうなりますと、少なくとも長期留置もかなり安全と考えて、一歩進んだと。結局このカニューレ自体に吸引孔をつけるということですね。この通気孔の下に吸引孔をつけてます。これをとりあえず作ってやろうじゃないかということで進めました。吸引孔の位置はどこがいいのだろうという試行錯誤をずいぶんやってまいりました。一つはこの位置(カニューレの先端)にあると、かなり気管内にたまっていきます。たまると、これを全部ふさがないとなかなか吸い取っていかないという現象があります。で、カフから先のオーバーハングが悪いんじゃないかと思って、オーバーハングをちょん切って、一番先端のところに吸引孔をつけたらどうか。これでだいぶ減りましたけれども、まだやっぱり結構たまる。じゃあ、この下側につけたらどうかということでやってみた実験がこれです。これをちょっとお見せしましょう。(ビデオ)
これで大変いいので、ほとんど完成したかなと思ったのですが、実はこれがとんでもない勘違いで、大変な問題が起こり得るということがそのあとでわかったんです。その話にいく前に、とりあえずそういうカテーテルを試作しました。この場合は中に吸引管を貼り付けてます。それから平たいチューブに変えていくのですが、もう一つメーカーも協力してくれて、カニューレ内に吸引ラインがあるという状況ですね。こういうものをつくって自動吸引のほうをやるようにいたしました(スライド10)。
それともう一つは吸引器です。普通の吸引器を使ってやった場合、一つは実は間欠的にしか吸引できないという問題があります。その一番大きな問題は、吸引がかかったときに換気を奪ってしまうという問題です。人工呼吸を奪ってしまうのですね。1回の換気量400ccの通常皆さんが使っているような換気量だったら、吸引器が入るとほとんどなくなってしまうという問題が起こります。一時的にはいいですよ、30秒くらいだったら別にかまいませんけれども、しかしそのときにローアラームが必ず鳴ります。吸引で目が覚めなくても、ローアラームで目が覚めちゃうじゃないかという問題が起こります。万一コントローラーが故障して吸引が止まらなかったらどうなるんだ。これは大変恐ろしいわけですね。そういう意味でどのようなモニターをつけるかということで、いろんなものを合わせていかなければいけません。さらに、動いてないときでも、リークが起こる。これは持っておられる吸引器を、吸引孔にくっつけてフッと吹いてみたらわかります。吹いてみて息が入るというのは漏れるということです。漏れるということは人工呼吸器のチューブに孔が開いてるのと一緒なんですね。そういうものを普段使えるわけがないではないかという問題があります。
それから、たとえば痰がたまったときに引くということになると、気道内圧が若干上昇するということでわかりますけれども、では普段の気道内圧をどう読みこなし、そこから上がったときに動かすという設定を誰がするのかとか、あるいはもし自発呼吸が残っていると、かかりまくりになるのです、むせ動作が起こってくるから。そういうことで、大変な問題がいろいろありました。
試作品が続々
これ(スライド11)は我々の仲間のエンジニアが作った唾液吸引器の試作器なんですが、これ、ローラーポンプを使ってます。
チューブをしごいていって、徐々に徐々に引いていくやり方です。この当時、この能力は1分間にたった15ccしか引かないという吸引器です。普通の吸引器は1分間に10リッターとか15リッターとか引いてます。それに比べて15ccというのはものすごく少ない。ではそれで痰が引けるのかということになりますけれども、それがこのビデオです。(ビデオ)
これが2004年2月ですね。これが今の自動吸引装置の原型になった、しかもそれを初めて患者さんに着けたときの最初のビデオということになります。たった1分間15ccでも痰があればあのように実は引けるんです。ただその場合に、すべての痰が引ききれるのかどうか、そういったことが効率の中で問題になってきます。このローラーポンプを使えば、一つはたった15ccしか引きませんから、人工呼吸に全く影響はありません。600ccに比べて15ccというのは取るに足りない量だというのはおわかりになるだろうと思います。つまり間欠的な使用じゃなくて常に回っておれるわけです。常に回っておれるということは、痰があったら引こうとか、時間がきたら引こうとかいう考えを捨てていい。常に回せる。痰が上がってきたときに随時引けるということで、制御が必要ないということになります。
それから誤作動がない。ずっと動かしておけばいいのですから。万一誤作動があったら止まるだけです。止まったからといってもエアリーク(空気漏れ)が起こるわけではありません。ふつうのカニューレに戻るだけです。ローコストかどうかということはちょっと問題があるのですが、ポンプ自体での事故の危険は少ないということです。
ローラポンプ、カニューレの工夫
ローラーポンプがチューブを押さえていますから、空気を吹き込んでも絶対に吹きこぼれません。空気が逃げないのです。2004年の臨床試験では、約半数が有効だったという状況でした。もちろん有効とはいっても、精々半減、回数がたとえば1日平均10回ある方が5回には落ちる、あるいは15回の方が7回ぐらいに落ちるかなという程度でした。もちろん半減程度では皆さまは納得していただけないだろうと考えまして、それから1年間、どうやれば効率がよくなるのかということを考えて、先ほどの吸引器の位置を決めていったわけですね。
実はですね、先ほどの下に開けた穴が、気管壁を吸い上げてしまうことがあるのです。つまり、吸引カテーテルを留置しておくということが問題だということと同じ現象で、カニューレ自体が吸引カテーテルになってしまって吸い上げてしまうという問題が起こってしまいます。それは放置できない状況です。そこで一つ考えたのは、ここ(カニューレのオーバーハング部)の下側に吸引孔がありますけれども、内側にも穴を開けるという方法でした。(スライド12)
これはたとえば、呼吸器を使わない静かな状態では全然引いてくれない。痰がたまっていっても吸引してくれません。ところが人工呼吸器を動かすと、これが劇的に引くようになるんですね。こういったところをお見せしたいと思います。(ビデオ)
引ききれなくてカニューレの内側に入った痰も吸気のときにまた吐き出されてそれを吸引してくれるというのが実現するようになったという状況があります。最終的に決めた設定は、このカニューレ壁の中に吸引孔があって、かつ下側と内側と、それとちょうど真上にあります。呼吸してない状態では痰は引けませんけれども、皆さん呼吸してくれてるので、空気の動きがあれば今のように引いてくれます。どのくらいの臨床試験結果があるかといいますと、これが一番最初の初期の状態で、先端に孔があって、たった15ccだけで引いていたというときも、引いた痰の量がこれですね。それで回数は9回が5回に、15回が9回に、有効といっても半減です。で、半分無効で半分有効というのが一番初期の段階でのデータです。
必ずとってくれるという患者本人の安心感
次にカニューレの下側から引こうということでやってみたんですけれども、吸引量は結構増えてますが、やっぱり半減なんですね。無効がしかも半分ある。有効があっても、10回が6回とか、16回が7回とか。夜間は結構減って0とか1になるのですけれども、昼間の回数があまり減らないということがある上に、先ほど言った気管壁を吸引して、そこに吸いついてしまうというトラブルが2件も起こっております。これは非常に危ないということで、最終的に私たちがつくった方法でのデータがこれです。
これは、吸引痰量はもちろんかなり引いてますが、何よりもそれまでと違うのは、たとえば16.9回の方は2回まで下がる。1日平均17回吸引していた方は2回だけで済む。それから10回の方も1.8回、5回の方は0.4回。これは2日に1回ということですね。ということで今までと比べたら圧倒的に能力が高くなりました。
さらにたとえばこの16.9回が2回になった方は、これは一番最初の臨床試験結果ですけれども、夜間も少しは減ってる、昼間も減ってるけれども、この結果が下方の場合ですね、下からだけ引くという場合に、夜間はほとんど0でいきますが、昼間はやっぱりいかない。それはカニューレの筒の中に排気のときに飛び込んでしまった痰の問題が出てくるからなんです。どうしてもそれでゴロゴロいってしまう。ところが、下方内方ということになりますと、ごらんのように0ですね。最初の頃こそちょっと多いですけれども、どんどん本人が慣れてくるとずっと0です。この方はさらにそのあと2週間連続でやってみたのですが、1週間で吸引がこことここしかない。これは何かというと、お風呂に入って外したとか、ここは実は看護師が上部と下部を逆につないでしまったとかいうこと以外では、ほとんど痰が取れてしまう。もちろん本人の、少々残ってても必ず取ってくれるんだという安心感、そういうものも必要だと思います。一度に根こそぎ取ってくれるわけじゃない。カニューレの方まで上がってきたときに異音がゴロゴロして気道内圧が上がるのですが、そうなったら確実に引けると本人が了解してくれると、いけるようになります。
実際に1か月やったあとにCT等を撮りましたけれども、まったく何の問題もありませんでした。そういう状況にいくことができました。動くデータがおわかりになりやすいと思いますので、最後に地元の放送局のほうで、つい最近ですけれども放送してくれた内容を少しお見せしたいと思います。(ビデオ)
いま15cc/分で引いているわけではなくて、現在は大体200ccぐらいがいいのかなと思っています。
これ(スライド13)が臨床試験で最終的に使ったローラーポンプです。200ccというのはかなり大きい数字に聞こえますけれども、人工呼吸の量の大体2%以下なんですね。そういうことであれば、気道内圧の変動もほとんどない。かつ、ごらんになったように1週間で2回とかいうところまで、患者さんが慣れていただいたらいけるということです。
ぜひ期待していただきたい
確かにカニューレを新たに製造していかなくてはいけないということで、時間がまだかかるということがあります。だけれども、こういう自動吸引装置というのは、自動吸引装置を使うことによってのトラブルとか事故が絶対に起こってはいけないと思っていますので、そこまできちんとやらないといけないというふうに思ってます。そういう中で、皆さま方に使っていただけるように、あと半年とか、あと一年で何とかしていきたいと思ってますので、ぜひ期待していただければと思います。長い間どうもご静聴ありがとうございました。(拍手)