徳永装器製、人工呼吸器無線遠隔アラーム レポート

大分協和病院では、ALSの人工呼吸管理を実施して、10年を越しました。この間、人工呼吸器でのあわやという事故寸前のトラブルも経験しています。それは、ある冬の夜でした。個室で就寝中の女性のALS患者さんの、エアラインのマウントが、気管カニューレからずれて外れてしまいました。傍らには患者さんのご主人が休まれていましたが、深い眠りについておられました。普段は個室のドアを少し開けておくのですが、ご主人が横におられるということと、冬の寒い日だったこともあり、ドアは閉められていました。部屋で鳴るアラーム音を耳にしながら、薄れゆく意識のなかで、もう駄目だと覚悟して、お友達の皆さんの顔を思い浮かべながら、お別れの挨拶をしていたと、患者さんは後ほどおっしゃておられました。

深夜2時、看護婦詰所で仕事をしていたM看護婦は、どこか遠いところで電話がなっているような錯覚を覚えました。カルテの整理をしながら、なんだろうと思いながら仕事を続け、脳天に電気が走ったような衝撃を感じたといいます。呼吸器のアラームが鳴ってる!あわてて詰所のドアをあけ、外に飛び出しました。アラームが今度ははっきりと聞こえます。個室に飛び込んだ彼女が見たものは、意識をなくし、蒼白となった患者さんの顔でした。ただちにエアラインを気管カニューレに接続し、脈を触れると、脈はありました。当直医も駆けつけるなか、患者さんの眼が開きました。よかった、間に合った。M看護婦は、全身の力が抜けたといいます。

実はここ大分県でも、呼吸器のライン外れによる事故は、稀ではありません。この10年間のなかで、少なくとも三人がその事故によって亡くなったり、脳障害を来たしたりされています。大分でALSで人工呼吸器管理を受けておられる患者さんは、30〜40名程度ですから、約10%に、致命的な事故が発生していることになります。これは大変な確率です。もちろん全国的に見ても、この種の事故は決してまれではなく、毎年多くの事故が新聞記事として公になっているところです。病院管理の観点からみたときも、この種の事故が院内で起こると、明らかな医療事故として、病院の責任を問われることになり、極めてリスキーな医療ということになってしまいます。それまでいかに一生懸命患者さんの安全のために尽力していたとしても、一回の事故が、全ての評価を変えてしまうのです。当院であった上記の事故寸前の状態も、患者さんが無事だったのは、単に運がよかっただけなのです。

アイエムアイが販売及びレンタルしているLP6という呼吸器には、遠隔アラームが周辺機器として販売されております。一台10数万と高額であるだけでなく、有線であり、いちいち配線を行わねばならぬこと、またそのケーブルおよびコネクタに断線が頻発してしまうという問題があります。もちろんLP6と違うタイプの呼吸器には装着できません(LP6とLP6プラスの互換性さえありません)。当院も4台購入していましたが、断線したケーブルのみの販売をしてくれないため、現在ではほとんどが使用不能に陥ってしまいました。

そこで、2年前、徳永装器の徳永さんが開発した無線で飛ばせる遠隔アラームの試作機を、製品化するように要請していたのですが、この度、徳永装器にて、基盤作成が終了し、製品化に成功されました。当院では、早速4台を購入し、院内で稼動している人工呼吸器に設置いたしました。

上の写真を見てください。人工呼吸器(LP6)の上に載っている黒いボックスが、今回開発、製品化していただいた遠隔アラームの本体です。呼吸器側面に赤テープでとめてあるのがマイクロフォンで、呼吸器本体からのアラーム音を拾います。ちょっとした吸引操作などで、遠隔アラームが作動しないように、ディレイタイムを15秒に設定(これは自由に設定できます)していますので、呼吸器本体のアラームが15秒鳴り続けると、遠隔アラームセンサーが反応し、無線発信機を作動させるという仕組みです。無線関係は、パナソニック製の市販品が使われております。これは全国のホームセンターで購入可能で、安価です。これらが患者側。

そして、この3名の名前が書かれている機器が、看護婦詰所の受信装置です。先ほどの発信機とセットになったパナソニックの市販品です。この一台で4台までの遠隔アラームセンサーを作動させることができます。

さて、どこかの呼吸器のアラームが鳴りはじめ、それが一定時間以上持続すると、センサーが作動します。すると受信機の該当する方のインジケーターと頂部が赤く点滅し、アラーム音を発します。看護婦は、これがなる時は、センサーのディレイタイムに、呼吸器自体のタイムラグが重なっていることになりますから、すぐ患者の元に行かねばなりません。このディレイタイムのおかげで、ちょっとしたベッドサイドでの吸引処置などで鳴るアラームは、感知せずにすみます。逆にそれが鳴る時は、ただごとではない、と判断せねばならないのです。そして、安全が確保できたら、呼吸器本体と遠隔センサー自体のアラームリセットを押して、警報を解除します。受信機の頂部のリセットボタンを押しただけでは、すぐまたアラームが復活しますので、確実にベッドサイドでリセットしないと止まらない仕組みになっているのです。

大分協和病院では、早速4台のアラームセンサーを購入し、現在入院中の呼吸管理をしているALS患者に設置いたしました。何度かのテストでは、全て完全な動作を確認できております。誤動作はありません。病室に人工呼吸器をつけた患者さんを置いておくのは、医療者にとっても、もちろん患者さん本人にしても大変不安なものです。ICUなどのオープンスペースでの呼吸器の使用なら、目が届きますが、慢性疾患患者や神経筋疾患患者の呼吸管理は、病室で行われるのが普通でしょう。そういう患者さんを診ていくにあたり、この遠隔アラームシステムは必須のアイテムと、私は思います。

なお、徳永装器は、この機器を広く市販する予定だそうです。徳永装器の連絡先は、下記の通り。
Tel  0978-33-5595
E−mail tokufuku@fat.coara.or.jp

2002年3月5日 大分協和病院 診療部長 山本 真 記

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