2001年8月28日病院のIT化とは

ある会議があって、四国のつい最近建ったばかりの病院に行ってきた。240床のその病院は、放射線診断関係に8億もつぎ込み、それは壮観なものであったが、ひとつ疑問に感じたことがある。病院のIT化というやつである。その病院は、各階看護婦詰所に、液晶ディスプレイが二つずつ設置されていた。一つはドクターのオーダー用の端末、もう一つはナースが使う検温表のデータ入力のためのものだという。ドクターに、ある患者の点滴のオーダーを実演してもらった。6,7回クリックして目的の薬剤を拾い、登録。それを薬剤ごとに繰り返す。で、それは薬局へのオーダーとなるが、レセコンとは独立した体系なので、カルテに同じことを今度は手書きで書き込んで、請求はそれを医療事務が拾うということになる。病院がシステム化していくにあたり、このような複雑な経路を要求するようになるのは止むを得ない部分はある。家内工業的に、おーいあれ、ではすまないのは確かだろう。医療事故やミスの防止のために、書き間違えがないようにしなくては時代のニーズに届かない。しかし、伝票一枚の発生のために、これだけの労力を要求するということは正しいことだろうか。間違いなく小病院である当院においても、数年前、点滴指示は、伝票作成を行うことに変わった。それまではカルテに手書きの指示で、看護婦がそれを拾い、実施していた。伝票方式に移行して、毎回患者名、日付、サインをすることが煩雑に感じたものだ。まあ、それは慣れた。でも、このIT方式は、慣れることが出来るのだろうか。一つの点滴のオーダーに、これだけ煩雑な打ち込みをし、しかもそれは単なる発注だけで、看護婦に対してはカルテへの手書き指示が必要という。また、請求も連動していない。ナース用のITだって問題が大きい。病棟看護婦は、看護記録を書かねばならない。それは記述的にカルテに書く看護記録と、体温、血圧などバイタルを、記録紙にグラフなども含めて書く検温記録とがある。で、ナース用のIT端末は、このバイタルを入れていく作業用となる。しかし、その端末が詰所で一つしかないのだ。だから看護婦は順番に入れていくことになる。効率悪いことおびただしい。かえって残業時間が増えたとも聞いた。ところでIT化とは、なんのためにするのだろう。効率化?ミスを防ぐため?しかし、上の状況をみても、少なくとも効率化では絶対になさそうだ。ミスを防ぐためか?確かに医療ミスがこれだけ言われている現在、ミスをなくすために時間も金もかけるというのは立派な態度だとは思う。しかしコンピュータ化したからこそのミスも報告される今日である。IT化がミスを防いでくれるほどありがたいものでもなかろう。むしろ、その煩雑な手続き、ゆえに緊急事態に対応しえない非現場性の方が、よほどそれに関わる人のストレスを生んでいるのではないだろうか。IT化した病院は、一見先端を走っているように見える。しかし、本当のIT化は、もっとストレスのない、効率のよいシステムの構築を行うことではないかと思った。カルテ自体が電子化されていない現状では、ある部分のみを電子入力しても、全体の効率にはなんら貢献せず、かえって煩雑さだけが湧きあがってくる。しかし、この現状を見て、カルテの電子化という未来志向風のイメージも、少し形が見えてくる。少なくとも、入力する人の数の半分くらいの数の端末が必要だということ。夕方の看護婦詰所を見てみるといい。ほとんど全員が一生懸命看護記録をつけている。それを一つか二つの端末で代用できるはずはないのだ。

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