2001年9月24日狂牛病問題の本質

日本の狂牛病をめぐるこの間のどたばた騒ぎで、いったい何が真実なんだ、と怒りをもたれた方は多かろうと思う。とにかく農水省の発表の出鱈目さが目をひくのだ。どこまで出鱈目なのかを確かめるため、毎日新聞のサイトの検索サービスを使って、この事件のトレースをしてみた。結果は、嘘に嘘を重ねるという状態そのものである。簡単に整理してみよう。9月10日に、千葉県の牛一頭に狂牛病の疑いありというニュースが流れた。その牛は、焼却処分されたということであった。これが9月14日のニュースでは、実は焼却していなかった、ということになる。当初焼却処分にしたとしていたのは、千葉県の畜産検査所で脳を検体としてとった後の頭部だけだったことが後にわかる。件の牛は、茨城県の加工場で肉骨粉にされていたことが判明した。しかし9月15日の報道では、問題の牛を含んだ肉骨粉150トンは、全量保管されているということであった。ところがこれも嘘だった。16日には、農水省は、徳島県の飼料会社からの製品を使うなという指示を出す。保管されていないことがわかったからだ。9月20日には、問題の肉骨粉は保管などされておらず、徳島、愛媛の工場にまわり、養豚、養鶏用の飼料として加工され、しかも販売されていたことが報道されている。農水省は、豚、鶏は大丈夫という声明を出すが、次に明らかになったのは、22日に、山形の業者が、養鶏用の飼料を牛に与えていたことである。もちろん一農家の問題であるはずがない。農水省は、ほんの2ヶ月前の7月に、日本にも狂牛病発生のおそれありとしたEU委員会の報告書を、我が国は危険がないとして拒否しているのだ。いったいどこを向いて、どういう質の行政をしているのだろう。大見得を切ったあとのこの体たらくに、農水省の権威など吹き飛んだのは当然なのだが、事態が判明した後も、執拗に希望的観測の嘘ばかり垂れ流し、すぐに訂正という茶番劇を続けている。少なくとも国民の健康を守るという観点は、おそらくどこにも見当たらない。何の根拠もないのに、きっと安全、心配するなという口先だけのブリーフィングである。アメリカの同時多発テロの陰にかくれているが、こういう農水省を存在させておいていいのだろうか。有明海の死滅の原因が、諫早湾の閉め切りにあることが誰の目にも明らかであるにもかかわらず、策を弄して水門を開けないようあれこれ屁理屈たれつづける体質は、本質的なものだったということが分かったことが収穫だろうか。労働省の体質だって似たようなものだった。それが厚生省と合併して少し変わったといわれている。資料が公開されるようになったのだ。私がこの10年テーマにしてきたじん肺と肺がんの関連性について、労働省は、裁判で、両者に関係がないと御用学者を動員して主張しつづけてきたが、この度公開された労働省委託研究によれば、平成11年の委託研究の多くが両者に関係有りという報告書を提出していた。私たちは、この春、ついに広島高裁で勝利することができたが、厚生労働省が上告出来なかったのは、こういう理由があったのだ。テーマ、問題の広がりとも全く規模が違うが、国民には真実を知らしめず、行政に都合のよい理屈と嘘を無根拠に垂れ流し、それを拠り所にした行政を展開する。こういう行政をしてはだめだと糾弾されたのが、エイズ問題であり、ハンセン氏病問題だったのではなかったのか。

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