2002年7月1日 医道審議会の品格を疑う

6月27日の朝刊を見て、心が震えた。医道審議会の答申が出され、医師免剥奪が6名出ているなかに、元千葉徳洲会病院院長の村田恒有氏の名前があったことだ。直接の知り合いなどではないが、地域医療研究会での大物である。よく名前は聞いてきた。日本赤軍の重信房子をかくまった罪で、彼は逮捕され、昨年地裁判決を受けている。私たちの世代にとって、重信房子という名は、何か神秘的で、雲の上の人という程度のイメージであるが、全共闘世代たる方々にとっては、体温を観ずるかつてのお友達なんだろう。彼女が捕まったとき、何度も日本に入って、生活していたことも分かった。もちろんそれを助ける組織や個人の存在も明らかになり、その中の一人として村田氏の名前も挙がり、逮捕にまで至ったのである。そして昨年夏に出た地裁判決は、執行猶予付きの懲役刑。実質微罪と判定されたわけである。その後、彼は別の病院で地道に医療に携わっていたという。その彼が、今回医師免剥奪の処分となる。医道審議会は、毎年医師にあるまじき行為をしたという医師、歯科医師の免許を停止したり剥奪するという権限を有している。もちろん実行者は厚労大臣ということになるが、答申どうり実施されるため、実質的にはここが一審制の最高権力として存在する。今まで医師免剥奪といえば、殺人、放火、強制猥褻、暴行、脅迫など、粗暴犯に限られ、おそらくは実刑確定者を対象になされていたはずである。今年の村田氏を除く5名の剥奪者は、殺人、放火、強姦である。彼らがこのような処分を受けることに対し、特に異議はない。まさしく医道に外れた行為であると思えるからだ。
しかし、今回の村田氏への処分は、医道に外れた行為と果たしていえるのであろうか。国際指名手配を受けているかつての友人を、ひととき匿う。窮鳥懐に入らずんば、の例えもある。村田氏は重信氏と、国際赤軍の共犯関係でもなければ、また彼が匿った相手は粗暴犯でもない。国の規定からいえば、テロリストは粗暴犯以上であろうが、私たちの意識としては思想犯である。まして村田氏については、犯罪者という意識ももちにくい。
行為への裁きを思想の有無で勝手に裁量するのは、人治である。罪刑法定主義という考え方は、人治ではなく、法治を実施するために、人を思想で裁かず、下された行為で裁くことである。思想については、憲法でその自由を認めたはずである。罪刑法定主義である裁判所の判断は、執行猶予付き有罪判決であった。政府からみたら、日本赤軍とつるむのは怪しからぬかも知れぬが、罪刑法定主義から見たら、行為は微罪ということなのである。それをこともあろうに、医道審議会は最高刑である医師免剥奪という処分に出た。人治そのものである。赤狩りである。マッカーシズムである。思想の自由などどこ吹く風、対テロ戦争の先兵というべきである。学識経験者のお集まりの審議会の品格を疑う。アメリカでは例のテロ以降、対テロ戦争に異議をとなえただけで非国民扱いとかいう。そのような精神的な貧しさを共有してどうするのだ。医道とは、そのような非寛容の精神というのか。とにかく情けないの一語である。

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