2004年11月22日 臨床試験を開始して 自動吸引装置の臨床試験の今年度分を開始して3週間目に入った。今年は気管内の痰と唾液を別々に量を測ろうと、口腔、鼻用の吸引器と気管用の吸引器を別にして、さらにカフ上部吸引とカフ下部吸引をローラーポンプで低量持続で行い、使用した水の量、採取された水や痰の量などを毎朝測定している。通常の臨床医としての勤務が免除されるわけではないから、8時半までにその測定を全てしないといけない。最初の週は、2名分の測定に1時間以上かかっていたが、2週目以降4名が対象になったものの、同じく1時間くらいで抑えられているから、だいぶ要領がよくなったように思う。最初のうちは、毎朝吸引された痰の量を見ては一喜一憂するだけでなく、しょっちゅう試験中の患者さんのもとに行って、正常にポンプが動いているか気になってしかたなかったが、もうだいぶ慣れた。そうすると不思議なもので、吸引もうまくいくようになっていて、コンスタントに20cc程度の痰を自動吸引で採取し、用手吸引も一日2回のみなどという記録も出てきた。あんまり神経質にならないほうがよいみたいだ。 厚労省の研究費を使っての自動吸引研究も2年目になっている。1年目の成果は、これまで開発を進めてきた電動式吸引器の間歇使用をきれいさっぱり捨て去り、ローラーポンプを用いた常時低量吸引としたことだ。このことによって病院に泊り込まねば出来なかった自動吸引が、ほとんどストレスなく出来るようになった。このことは非常に大事なことで、いかに精度の高いそして能力の飛び抜けた機械を作っても、それを扱うのが大変で、目を離すことも出来ないというのであれば、介護家族の負担を減らすための開発という目標にとって本末転倒もいいところである。以前からローラーポンプによる唾液吸引器を徳永さんが作っていたのが、実に役にたったのだ。いや、今回の研究でも、このローラーポンプを用いた実験モデルを作っていた。ただ、痰の吸引ではなく、模擬痰を気管モデル内に少しずつ落とすためだった。これを逆につないだら痰の吸引が出来るじゃないか、そういうことに突然気づいたのである。それまで電動式吸引器の間歇的使用によって自動吸引を行うときに最もネックだったのは、吸引を行っている間、患者さんの換気が減ってしまうことだった。それは短時間なら問題になるようなことはないが、万一誤動作を起こして止まらなくなったら、と思うとそれは恐ろしい。病院で各種モニターで守られている状態なら、使っても大丈夫だろう。しかし、その機械を家にもって帰れるだろうか。いや、家どころではない。研究班の別の病院のドクターからは、山本先生や徳永さんがついてくれたらしてもいいが、自分だけじゃとてもやれない、という言葉もいただいた。ローラーポンプとは、チューブをしごいて吸引力を発生させるという方法である。チューブを潰しながらしごくので、ここからエアが漏れることがない。吸引とともにエアも確かに引かれるが、せいぜい一分あたり15cc程度だ。これは人工呼吸器の分時換気量6000ccなどと比べたら、無視できる微量であることがわかる。なら、常時吸引してもかまわない。そうすると制御という概念もいらなくなるのだ。制御がかからないということは、誤動作が生じないということでもある。常に動かしてよいのだから、止まらなくなって困るということがない。この考え方にたどりついたとき、我々の手を離れても大丈夫だという確信がもてた。昨年の臨床試験は、最初の一人目こそ電動式吸引器の間歇使用であったが、二人目からはこのローラーポンプによる常時吸引方式に変えた。そして半分の症例で夜間の吸引回数で有意な差(統計学的意味で、意味のある差ということです)が出た。しかし、逆に言うと半分の症例では効果が出なかった。今年の研究は、その効果が出なかった症例に、どうやったら効果が出るようになるのか、がテーマである。吸引器の方は、不評だった騒音を解決するとともに、15cc/分だった吸引量を最大200cc/分まで引き上げた。気管カニューレの方も、カフ下部吸引孔の位置について検討を加えた。メーカーも、より自然なカーブを持った下部吸引カニューレを試作してくれた。そういった成果の上に現在の臨床試験が始まっている。用手吸引ゼロなどという大それた目標を、実はひそかに個人的に持っていたが、なかなかそのように目標を高くするとまだまだだと思うが、それでも一日2回の用手吸引などというデータが出ると、やはり嬉しい。まだまだ臨床試験は始まったばかりである。試験を行いながらも主にカニューレに改造を加え、安全、確実に痰を取るように完成度を上げたいものである。 とりあえず途中経過の報告です。 |