2011年6月29日 二兎追うものは

原発事故の後始末が、延々と続いている。あれだけの大事故であるうえ、放射線物質をばら撒き、炉内はメルトダウン、メルトスルーなどという超深刻な事態となっているのだからそれは仕方がない。この先も、どこまで続くぬかるみぞ、などという古いフレーズを思い出してしまうが、今回の循環冷却のトラブルは、表題の二兎追うものは一兎も得ず、というこれまた古い言い回しを思い出してしまう。

今回設置された循環型冷却装置は、これ以上のあらたな水を使って汚染水を溢れさせないため、汚染水溜まりから水をとり、途中で放射線物質を除去して格納容器に注水するというサークルを作るというものである。一見まともに見えるが、始動当初よりトラブルが相次ぎ、ほとんど成果があがらない。

今、最も大事なことは原子炉を冷やすことであるはずだ。汚染水の放射線除去を同時に、同じ回路でする必要がどこにあるのであろうか。もしあるとしたら回路が放射線物質で損傷するということなのかもしれないが、短期的にそのような事態が起こるとは考えにくい。システムはシンプルであることが最もトラブルから逃げやすい。手前味噌であるが、自動吸引システムは、当初のセンサー満載のハイテク機器から、全くのローテクに変化させたことで、安全性が格段に向上した。ハイテクの安全性を向上させようとすると、屋上屋を重ねるというような構造になっていかざるを得ない。構造が複雑になるほど、エラーの発生率が上がってしまう。このジレンマがある限り、全国どこで事故が起こるかと、開発者は不安で眠れなくなる。しかし、ローテクでかつフェイルセーフの構造を取ることができたのであれば、複雑系で発生するエラーから自由になれる。それは本質的な安全性の確保に繋がるのである。このローテクシステムが確立できたからこそ、我々の眼の届かない全国の現場で使うことに対し、不安が消失したと言えるのだ。そしてメーカーも安全性には自信を持てるがゆえ、出荷することが出来るようになったのだ。

今回、なぜ原子炉を冷却する回路に、汚染除去のシステムを組み込もうとしたのか私には理解不能である。冷やすのであれば、単なる循環回路を使って冷やせばよい。どうせ格納容器内に入れのだから、排出水は確実に汚染されている。まず冷やすことが大事なのであるのだから、これを確立するのが第一段階だ。そして余裕があれば別回路を設けて除染を行えばよい。これなら除染回路にトラブルが出ても、原子炉の冷却という第一目的を止める必要がない。

なぜ一つの回路に二つの目的を入れようとしたのか。その方がコストが少なくなると考えたのであろうか。シンプルイズベストである。まさに古来からの格言、二兎追うものは一兎も得ず、そのものではないか。