2012年7月20日 在宅人工呼吸の停電対策はクルマだ

昨年の福島原発崩壊から、在宅人工呼吸の停電対策について行政が口を出すことが多くなった。急に保健所を使って調査して、外部バッテリーのない家庭もある、などと偉そうに指摘したりしている。ただ、我々はもう20年も前から在宅人工呼吸のキモは、停電対策だといい続けてきたのだ。そこでいう停電対策とは、今回喧伝されているような2時間程度の計画停電などではなく、もっと長い停電を想定したものだ。20年前、阪神大震災があった。何日も手でバッグを押して患者を助けたというようなエピソードもあった。大学自動車部出身の私としては、最初から自動車の電源を利用して、長期間の停電に対応する、ということを考えた。停電になって困ることは、人工呼吸器が動かなくなることだけではない。吸引器が動かなくなることが実は大きな問題なのである。そのために足踏み式吸引器や、手動式吸引器などという製品もあるのだが、普段使っていないそのような人力器具はなかなかに使いづらい。充電式吸引器というものもあり、短時間の外出などには重宝されているが、これも何時間も停電が続くと使えなくなる。あと何時間かで止まる、というのは使うものにとってもストレスが大きい。そこで自動車の登場である。シガープラグから電源を取り、DCACコンバータ(通称インバータ)で100Vの交流に変換し、そこから延長コードを使って屋内に取り込み、人工呼吸器や吸引器を作動させる。エンジンを止めておくと、単なる外部バッテリーと変わらないので、クルマはエンジンを掛けっぱなしにしておく。もしガソリンが切れたら別の車を持ってきて使う。台風など停電が予想されているときはクルマを満タンにしておくなどの注意が必要だ。さて、満タンのクルマでは、どのくらいの期間エンジンは回り続けるのだろう。今まで満タンにしておけば軽く2昼夜くらいいきますよ、と私は言っていたが実は測定したことはなかった。昔学生のころ真冬の高速道路での事故で6時間道路上で待機させられたとき、寒かったのでエンジンを付けっ放しにしていたが、フューエルメータの針がほとんど動かなかった記憶からそのようなことを言っていた。今回、当院の若い者に、これを実験せよと命じた。そしてやってくれました。うちの訪看用の軽自動車(プレオ)では、8時間のアイドリングで2.5Lのガソリンが消費されたという結果を彼は持ってきた。このクルマのガソリンは満タンで32L入るので、アイドリングでは4昼夜と6時間という結果が出た。なんとまる4日間動き続けるのだ!これは私にとっても新鮮な驚きであったとともに、これまで言い続けてきた停電対策の正しさが実証された思いであった。今の計画停電の2時間くらは、昔のLP6などを使っていないかぎりほとんどの在宅用人工呼吸器はクリアできる。そして充電式吸引器があればそのくらいの時間なら対応可能だ。わざわざ高価な対策などしなくても現在の在宅であれば対応可能であろう。もし充電式吸引器をお持ちでない家庭があれば、早急に役所に日常生活用具の申請をすべきであろう。このご時世、落とされるとは思えない。私たちが停電対策を当初より真剣に取り組んできたのは、1995年に大分市での最初の在宅人工呼吸が開始された翌年、そのお宅が台風停電を食らって5時間の突発的な停電が発生したことが理由の一つでもある。私はそのときバッテリーを持って患者宅に走った。それでもバッテリーは5時間くらいしかもたないので実はひやひやものであった。もっと長く、時間に制限のない外部電源がいると強く思ったのだ。以来、在宅の開始ではクルマからの電源をとることを最重要としてきた。マンションの5階などでもコードリールを使って窓からコードを下ろして使えることを確認した。普段使わないと、いざというときに接続にとまどう。そのため台風シーズンのたびに一度は実際につないでもらうようにしている。そういった日ごろの対策が大事だと思う。