2014年1月9日 自動吸引用カニューレの吸引ライン閉塞対策について

私たちの開発した痰自動吸引システム、すなわちカニューレ内吸引ラインと低定量持続吸引という方式は、多くの患者さんに劇的な効果を見せ、専用低定量吸引ポンプ(徳永装器研究所製アモレSU1)が結構高価であるにもかかわらず、現在600台近くが販売され、専用カニューレ(高研製)もそれに見合った実数が販売されています。

しかし、市販当初より、カニューレの吸引ラインの閉塞が起こりやすく、たびたびカニューレを交換しなければならないという話も少なからず伺っております。この吸引ラインの閉塞も、痰の多い患者さんではむしろ起こりにくく、痰が少ない患者さんにおいて発生率が高い傾向が見られていました。おそらくカニューレ壁内に埋め込んだ吸引ライン内に痰が付着し、次から次へと痰が運ばれる場合はうまく流れますが、痰が少ない場合、同部位に固着してしまう現象が生じてしまっているようです。私たちと協力関係にある某国立病院機構病院では、唾液増量剤を用いてこの現象を回避できたという話を伺っています(つまりわざと気管内垂れ込み量を増やして、吸引量を増大させ、痰の固着を防ぐということです)

ダブルサクションカニューレ製造メーカーである株式会社高研も、この点は理解してくれており、昨年12月発売の新型カニューレ、コーケン・ダブルサクションカニューレは、その対策として壁内吸引ラインを従来より約3割以上太くしてくれています。またカニューレのカーブやカフなども現代的にモデルチェンジもしてくれていますので、まずこちらに変更していただければと考えております。しかし、その新型カニューレでも閉塞は皆無になるかというと残念ながらそうとも言えません。

これまでカニューレ内に痰が詰まって吸引ができなくなった場合、カニューレの交換を勧めてきました。ただ、カニューレ交換はあまりに頻回になると現実的ではありませんし、さほど頻回でない場合も、すぐに交換できない場合も多いと思われます。このような場合、@エアフラッシュを行い再開通させる、A少量の生理食塩水を吸引しながら内方吸引ラインに通す、などの方法が現場では行われてきたと思います。私たちの病院でも現実には、カニューレの交換を行う前に、このような方法を試し、多くの場合で再開通を得てきました。

しかし、それらの方法で再開通が出来ない、というケースも残念ながらある程度あります。在宅で、数日で詰まってしまい再開通ができないため次のカニューレ交換までは持続吸引をあきらめるというケースもありました。このうち、注射器でエアや生食を押しても引いても全く入らないというケースは再開通不能ですが、比較的多いのが、抵抗はあるがなんとか水を入れることができる、しかし全く引けない、という状態です。この状態のカニューレでは、これまで一旦身体から外して、大量の水を強圧で押し込んだら取れる、ということは分かっていましたが、これを臨床現場で実施するのはトリッキーでありかつ危険でお勧めできませんでした。

今回その状態のカニューレ内閉塞を安全に回復させる方法が見つかりました。

それは、少量の水(生食ではなく精製水を使用してください)を内方吸引ラインに押し込んで、1015分そのままにしてから吸引ラインを接続するというものです。つまり、水で内方吸引ラインに固着した痰を溶かしてから吸引するということなのです。上記のような状態の強固な閉塞に実際に試してみて有効であることが判明いたしました。本方法は気管内に痰を戻すことなく再開通が期待できますので比較的安全な方法といえます。内方吸引ライン閉塞でお困りの方は、是非お試しください。なお、内方吸引ライン内への精製水注入は、内方吸引ラインの容積はわずか1mlしかありませんので、1.5ml程度の少量で結構です。注射器に1.5mlのみ吸って、内方吸引ラインのバルブに差し込み、注入してから注射器を外し、そのまま10〜15分静置してください。しかし閉塞による抵抗が高い場合は、少量では奥まで水が届きませんので、吸引カテを気管カニューレ内に入れて吸引しながら精製水をカニューレの内方吸引ラインに5ml程度入れてそのまま10〜15分放置してからアモレの吸引ラインをつないでください。