2014年7月24日 このたび学会報告した2演題について

719,20日に秋田で開催された、日本呼吸療法医学会学術総会に参加してきました。単なる参加ではなく、今回は演題二つ引っさげての秋田行きでした。前年は自動吸引システムについてこれまでのまとめの発表で、ポスター発表でしたが、今回は新規2演題のうえ口演(オーラルプレゼンテーション)でしたから気合の入り方が違います。直前に病院内で予行をしてみて、職員の皆様からはわかりやすいと好評だったのですが、発表時間に問題が出てしまいました。6分のところが9分以上。自分の勘とはちょっと違うなと思ったのも気合のせいでしょうか。 さて夏の秋田は結構暑く、昼間スーツなど来て歩けません。どのような演題を出したのかと言いますと、まず一つ目。

「ブロア式人工呼吸器の酸素使用量とFiO2の関連について」

近年在宅や慢性期用として(急性期用にもなってきています)主流となったブロア式の人工呼吸器がどうも酸素濃度が上がらないなと感じて、主要6機種の酸素利用効率を調べてみたものです。昔の機種が、大きな注射器が入っているというイメージのシリンダー型なのですが、この酸素利用効率に比べて、最近の機種は同じ酸素濃度を得るために必要な酸素が、2〜3倍以上となることがわかりました。大体の目安でいうと、PB560とトリロジーが3倍以上、レジェンドエア、VIVO50が2倍、モナールT50とウルトラが1.5倍というところでした。わかりやすく図にしたものがこちらです(追記 註1)。酸素はおおむね1L/分で使うと月1万円の費用がかかります。慢性期の場合のまるめ請求ではこれが請求できません。10L/分も使うと10万円となりこれがすべて病院のかぶりとなってしまうのです。費用の安い慢性期でこれは痛いので、酸素効率のよい機種を選ばねばということになるわけです。この測定で問題になったのは、VIVO50に無視できない量のバックフローがあることでした。当初VIVOの成績があまりに良くて(ほぼシリンダー型並み)感動していたのですが、再測定で現実とかけ離れたデータが出たので精査してみると、なんと呼気が呼気弁より機械側に噴出している(バックフロー)があることが判明したのです。これが20〜30%(測定日によっては70%という非常識な値が出たこともあります)存在し、この再呼吸によって酸素濃度が上がっていることが分かりました。ちなみに他の機種にはバックフローは全く発生していなことも確認し、これはVIVOの特異的現象であることを把握しました。このことも学会に報告するとともに国内代理店(チェスト)にも連絡し、早急な対策を講じていただくよう要請しているところです。もしVIVO50をお使いの方は、PEEPゼロでは絶対に使わないようにしてください。PEEP3以上であればバックフローは10%程度に減少しますので使用は可能と思います。この原因は、VIVO50の送気回路に一方向弁が組まれていないこと、バイアスフローが極端に少ないことによると考えられました。 

もう一つは、この間私たちの病院で痰の多い気切患者の標準的治療になっている

「自動吸引システムとPULSARの併用による排痰効果について」

というものです。2年前からカフマシーンという、人工的に咳と似た状態を作り出して痰を出そうというシステムが、在宅医療のなかで医療保険に収載され使用が広まってきました。これまでのカフマシーンは、一本の回路で強い圧をかけ、その直後強い陰圧で痰を引き抜こうというものです。一本回路であるうえ、回路は1.6mで容量が600mlくらいありますので、これは完全な再呼吸となります。したがって連続は5回までと制限されています。5回の再呼吸でどのくらいPCO2が上がるのかわかりませんが、とにかく一時的に使用するというシステムです。それに対し、昨年チェストが導入したイタリア・シアレ社のパルサーというカフマシーンは、吸気、呼気の回路が別で、再呼吸しないようになっています。そのため連続使用が可能です。市場の評判では、パルサーはレスピロのカフアシストに比べて力が弱いというものがあるようです。これはフローがカフアシストが10L/秒に対し、パルサーは2L/秒と低いことによるもののようです(他社からの伝聞です。正確でないかもしれません)。私たちはこのパルサーを、私たちの作成した自動吸引装置と組み合わせるということを行ってきました。最初は1時間程度の短時間から、3時間や12時間といった長時間まで患者の状態を観ながら試してきました。もちろん短時間と長時間では設定は違えています。それまでのPCVの設定に近くしていますが短時間では+20/-15、長時間では+18/-10としています。そしてそのことで劇的に改善した症例、時間はかかりながらも改善しつつある症例、改善とまではいかないがなんとか現状維持できている症例をえてきました。また6ヶ月以上の連続使用においても、この治療が原因の副障害(VILIなど)は生じていないことも明らかにしました。この発表のキモは、パルサーは単回使用だけでなく長時間使用が可能であるが、それでは痰で回路が塞がれる恐れがある。それを自動吸引を併用することによって回避できるというものです。折角の口演でしたので、ビデオも用意し、パルサーを装着して自動吸引で痰がどんどん引かれる様を映写しました。ちょっと残念だったのは、この発表がメイン会場から離れたところで3題のみのセッションで聴取者が極端に少なかったことです。

 学会は順調でした。友人である徳器技研の徳永社長が作られたカフキーパーが今後コビディエンが独占販売するらしく、同社のブースにきれいに飾られていました。基本的にICUでのカフ持続管理が目的の機械です。徳永さんもメジャーの仲間入り、かも。夜は自動吸引が取り持ってくれた方々と楽しい宴会ができて秋田の夜を楽しめました。唯一の難点は、帰りの便が羽田の大雷雨で3時間以上スタックを余儀なくされたことくらいでした。

註1. この図は、一定の換気条件で、吸気が50%の酸素濃度を得るために必要な酸素量を示しています。測定条件は、一回換気量300ml、400ml、600mlで、IE比1:3、換気数15回/分としています。テスト肺を用いて、ImtmedicalのPF300を用いて酸素と換気量を測定しています。図の縦軸が酸素量(L/分)、横軸が換気量です。シリンダータイプのLP6に比べて、ブロア型が総じて要求酸素量が大きくなっているのがわかります。要求酸素量が大きいほど、同じ酸素濃度を作るために多量の酸素を要する(すなわち酸素利用効率が悪い)ということになります。