2016年4月11日 50代以上は破傷風ワクチン接種を   

私も一昨年還暦を迎え、同世代の友人たちも定年の時期だ。奥さんの稼ぎのいい友人は、ヨット三昧などという優雅な者もいるが、多くの方はまだ元気があふれ、定年延長やら再就職やらで頑張っておられるだろう。そして時間が出来た方は、農地を借りて農業をやろうという方も耳にする。環境を汚すことをいとわず、ギャンブルに近い釣りにはまるより、しっかり環境を整え、計画的に作業を行う農業(といっても営業でやるには農薬の大量使用などの問題があるが、自家消費ならそのようなことをする必要がない)は好ましいと思う。

しかし、ここで一つ考えてもらいたいことがある。それは破傷風の感染リスクについてである。

現在の子供たちはDPTワクチンというものを小児期に定期接種しているが、これが始まったのは、1968年なのである。それまでもジフテリアと百日咳のワクチンである二種混合ワクチンは自治体によってはなされていたが、破傷風ワクチンが加わる3種混合は1968年からなのである。1968年生まれとなると現在47歳だ。つまり我々60歳台はこれらの感染症に対し無防備なのだということを知るべきである。2011年の東北大震災の復興事業などで10名の破傷風感染者が発生したことが知られている。そしてその感染者は全員50歳以上であったことは、その年代から上がワクチン接種されていないことときれいに重なるのだ。抗体力値を調べた調査でも、この年代から激減していることが分かっている。

すなわち、我々50代以上の日本人は破傷風に対して無防備であり、そのことがきちんと知られていないという大きな問題があるのだ。先進国では残念ながらわが国はワクチン後進国といわれ、そのような状況はわが国だけという。実に恥ずかしいことであり、一刻も早くこの状況を改善せねばならないと思う。といって国による政策変更をこの小文で期待することなどできない。私たちに出来ることは、少なくとも私どもの病院にかかっている方にこのことを広報し、破傷風トキソイド(ワクチン)を受けていただくことだ。この年代で、過去に破傷風ワクチンを打っていない方(大半であろう)は、3回打っていただくことになるが、このワクチンの料金は極めて安く、たいした負担にはならないはずである。とくに定年後帰農など土いじりされる方は絶対に打っておいたほうがよい。土いじりをしたからといって滅多に破傷風にかかるものではない。しかしそれでも毎年100人以上の患者がわが国ではでており、その大半が中高年なのだ。そしてひとたびかかると重篤な後遺症から免れない。是非そのことを知った上でワクチン接種をしておいてほしいと切に願う。

 同種の問題は日本脳炎にも存在し、この件はまた別に稿を起こしたい。