2016年8月30日 スズキの軽のハンドリング  

 3年くらい前、当生協のクリニックの往診車が更新された。それまでは三菱トッポであったが、スズキのアルトに変わった。初めて乗って、何、このハンドリングと走り出してすぐに違和感を覚えた。重い、というより固い。その上ハンドルを切ったらセンターに戻らない。もちろんパワーステアリングは入っているのだが、この固さと戻りの悪さは異常だろうとディーラーにクレームを出した。しかし、結果はこれが正常ということであった。未だにスズキはこういうハンドリングでよいと思っているのかと、そのとき改めて僕のスズキ嫌いが確信になった。そしてそれには訳がある。

 昔、1990年ころだと思うが、妻のクルマを更新することになり、当時660ccになったばかりの新軽規格車の乗り比べをした。最終的にはスズキアルトと、ダイハツミラの二択となったが、この両者は同時代のクルマとして考えられないような差があった。当時はスズキの方が売れていたと思う。両者は足回りの剛性感に大きな差があった。当時私の乗っていたクルマはVWジェッタであった。徳大寺氏が、100m走ればゴルフの足回りの良さが分かるといわれた、あの足回りを共有するクルマである。確かに重くはないがしっかりしたハンドリング、安定感の高い足回りでこれがドイツ車かと尊敬したものである。ただマイナートラブルは結構多く、その一つがオイル消費量の多さであった。1000km走るとオイルが半分に減ってしまうので常にオイルを搭載しておかねばならない。それを忘れて遠出してオイルアラームが点灯するなんてこともあった。ディーラーで出会った他のジェッタ乗りは、クーラントがすぐなくなる。だからいつもクーラントを携行していると言われていた。だから決して完成度が高いクルマというわけではなかったがその足回り、ハンドリングは文句なく素晴らしかった。ちょうどトヨタあたりが自らの非を認めて、Fun to Driveなどを標語にした時期だったと思う。現状が、Not fun to driveだと認めたわけだ。

 そしてミラJ。ダイハツによる初めての新規格車だ。驚いたのはその足回りで、ダンピングの浅さこそ軽だが、その他の感覚は、なんと当時の国産車のなかでVWに最も近いものであったのだ。片やスズキアルトの方は、評価の対象にもならないものであった。ダイハツは足回りの意味が分かっていると考え、もちろんこちらを購入した。当時の専門誌CGでも、スズキの軽は、よくできた軽だが、ダイハツの軽は、クルマとしてよく出来ているという評価が書かれていた。軽ならこの程度という観点を超える新ミラであったわけだ。

 さすがにあれから25年。スズキもそのデザインセンスの違和感は続くものの、新しい往診車はそれが払拭され、おとなしい佇まいのデザインであった。どちらかというとライバル会社のモチーフのようだった。しかしそのハンドリングたるや、重厚といえばほめすぎであって、鈍重というものであったことにあきれた。相変わらず軽ならこの程度のレベルのクルマであったのだ。そしてこのハンドリングは調整がおかしいと考えたのだが、スズキのディーラーはそれが適正と考えていたわけだ。

 このたび現在のセカンドカーである初代インプレッサがトラブルを起こしたため、佐伯の名メカニックAさんの工場に入ることになり、代車がスズキワゴンRであった。どうしよ、お医者さんに貸してあげれるようなクルマうちにないで。あたしのクルマの荷物降ろそうか、と言われた修理会社社長婦人に、いやこいつはそんな気を使う必要ないと答えたメカニックのAさん。はい、仰せのとおりです。そしてワゴンRに乗ってみてハンドルが固まっているんじゃないかと愕然とした。あのアルトの感覚がもっと強いのだ。大分に帰るころには両腕がこわばった。でもステアリングの重さだけは、2,3日乗って、ほぼ慣れた。でも妙にセンター付近で重く、戻りが悪いハンドリングへの違和感は残った。具体的に言うと、ゆるいカーブだとハンドルを放してもそのまま曲がって走ってくれるのだ。おお、自動運転カーだ、なんてほめてはいない。スズキはこういうハンドリングでよいと思っているのですね。あるいは、これがスズキの味と確信しているのか。それなりに美しかった先代のアルトは、「1秒で好きになる」どころか、女性たちから0.5秒で嫌いになると言われたりしている攻撃的なデザインにまい戻り、グリルをつけないから雨が降ると顔が黒く汚れるフロントとか、リアウインドウがかつてのホンダZのパクリみたいだとかいろいろ微妙なクルマであるが、それは好き好きだからいい。しかし、もう少しハンドリングに注力されてはいかがだろうか。運転したことはないが、スイフトなどの小型車規格は足回りに定評があるようだし、いくら軽でもこれだけ売れているのだから、よりスムーズかつ素直なハンドリングにしていただきたいものである。少なくともより軽く、センターにきとんと戻るようなステアリングの方が好ましくはないか。スズキばかり乗っていると分からないかも知れないが。