山本の主張

Dr Makoty's advocate 2022

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2022年6月21日 最高裁判所に問う

617日の我が国の「最高」裁判所が、福島第一原発事故に国の責任なしとの判断を示した。この国の最高裁は、芯から腐っていることを自ら証明したわけである。法的な責任範囲であったり、予見不能性であったりという法理論から否定したわけではない。実際的な行政的施策として、何もしなかったことが責任なしと判断したのである。巨大津波の可能性が示され、その対策を採る事が、膨大な資金的負担となるので、その可能性がなかったことにしたい私企業、東電には当然不作為の理由がある。しかし、事故が起こった場合のリスクやハザードを適確に評価して、誤った巨大リスクを修正することこそ行政の責任ではなかったのか。 

2006年に、この国の行政の長は、日本の原発には海外と同様の災害が発生するおそれはないと断言し、電源喪失対策をとる必要がないなどと、子供でも分かる詭弁を弄して不作為を支持した。この男は、自らを立法府の長と誤認する程度の理解力の持ち主であったため、今になってもこの発言の軽さと発言者のリテラシーのなさを示したことに驚きを感じるが、これは単にそのときの行政の長の独作ではなく、それを言わせた通産官僚がいたはずだ。答弁書を書いた官僚も、まさかこんな馬鹿な答弁が通るとは思っていなかったのではないか。神輿は軽くてパーがいいなあなどと酒席で笑っていたのだと思う。まず、この大方針を示したことが国の最大の責任である。なにせ行政の長たる総理大臣が対策を採らなくてよいとの判断を示したからである。 

つぎに予想で示された津波より、現実はさらに大きく、方向も違ったから、たとえ当時の予想で対策をとっても無駄だったとの判断が示された。津波対策とは、巨大防潮堤しかないという、裁判官という文系官僚のリテラシーの低さを見事に示した。この原発は、津波ということを一切考えないで立てられた。以前私も書いたことがあるが、海抜5mの敷地など、5mの津波対策などではない。通常の台風対策程度なのである。どんな海岸の漁村でもこの程度の海抜はある。さらに言うと、この海抜5mというのは、満潮面からの高さではない。干潮面からの高さである。従って満潮ではわずか3mの落差しかないのだ。いかに全く津波を想定していないことが分かるだろう。しかも非常電源装置が、最も海岸側のさらに地下に作られていた。実に海抜マイナス数mなのである。まさしく津波対策ゼロである。ここは10mの津波ではなく、満潮時ならわずか3mの津波でも非常電源は無効化したのである。もし津波がきたらこの原発は崩壊するという危機感さえあれば、企業存立の危機として、なんらかの対策ぐらいはしたはずである。会社がそれをしなかったのは、防潮堤を作るには巨額の経費がかかることと、この原発に脆弱性があることを認めることになると考えたからである。1000年来なかった津波が今日や明日来るわけないとたかをくくったのだ。金がかかる、危険との風評が起こる、株価が下がるなどの理由で対策を採ることをしり込みする私企業(それは私企業としてはありうる態度である)に対し、それは社会にとって危険であると行政指導をするべき責任が国にはあったはずだ。そしてそれをやらなかった。単なる能力の低い人間が首相をしていたからだけではない。国の行政機構として機能を否定していたことが問題なのだ。バックアップ電源喪失の危機を考えれば、巨大な防潮堤を作らずとも、高台に非常電源装置を置くくらい誰でも考えつくことだ。原発廃止を要求できなくても(もちろんしておればこの災害はなかった)、出来ることをさせることくらいをしておけばこの災害を回避できた可能性があるのだ。そういうことも一切しなかった。対策したが駄目だったということと、対策もせず漫然と災害を招いたことは同義ではない。しかし、我が国最高裁判所はそれを同義だと言うのである。

無為無策で東日本大震災の津波を受けて、この企業は塗炭の苦しみを味わうことになる。それは自業自得なのでやむを得ないが、その監督者たる国の行政に責任がないというのは、最高裁判所判事という法務官僚が、同じく国家官僚を擁護したという腐った構造以外の何者でもない。巨大天災論に足場を置けば、東電にもどんな対策をしても無駄だったのだから、何もしなかったとしても責任はないというのとほとんど差はない。おそらく事故発生当時の行政の長が、心底低脳なあの男がやっていたら、そういう方針をとり、東電の責任はないとしただろう。なにせ自分自身が共犯者だからだ。あの当時、民主党が政権を取り、菅直人が総理であったことが唯一の救いだったのだ。民主党政権について様々な否定的評論が満ちているが、この原発事故については、民主党が、そして菅氏が首相でよかったと本当に思う。 

結論 最高裁判所は、自らの名前を最低裁判所に改名すべきである。